橋本多佳子句集「命終」 昭和三十一年 笠置
笠置
くつわ虫激ち一夜に一生(よ)懸け
[やぶちゃん注:「一夜」は「ひとよ」で、「一生」も「ひとよ」。総表題の「笠置」は京都府南部の相楽郡笠置町にある笠置山と思われるが、年譜上の昭和三一(一九五六)年秋のデータからは来訪は窺えない。後に出る「吊り橋」は笠置橋か。現在は違うが、当時は全長一三〇メートルの鉄筋の吊橋であった(ウィキの「笠置橋 (木曽川)」その他のデータに拠る)。]
くつわ虫歴(くき)とわが影燈を負ひて
ひとに会ふひとは知らずに虹を負ひ
露の吊橋「一橋一車」ならば許す
すぐゆくべく揚羽蜜吸ふ翅せはし
法師蟬友蟬ゐねばこゑとぎれ
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眼を病む
夕顔の匂ふ眼つむれば即ち盲ひ
右眼病めば左眼に青き野分充つ