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2015/02/18

「いとめ」の生活と月齢との関係――附・「いとめ」精虫及び卵、并びに人類の精虫電気実験に就きて――   新田清三郎 (Ⅶ)

本文は多様なフォントを使用したため、和文本文は明朝のままとした。

   Das interessanteste Phänomen einer Bestimmung der „Geschlechtskrise“ durch die Mondphase bietet aber überhaupt nicht der Mensch, sondern ein sehr tiefstehendes Tier, der Palolowurm der Südsee, Eunice viridis. Der Wurm lebt in den Gängen von Korallenriffen. Er pflanzt sich in der Weise fort, dass bei beiden Geschlechtern zur gleichen Zeit sich die hintersten Segmente seines Leibes zu kurzem selbständigen Dasein ablösen, an die Meeresoberfläche aus schwärmen und durch Entleerung der Keimstoffe, die sich im Wasser mischen und so befruchten, die Entstehung neuer Individuen ermöglichen. Die abgestossenen Leibesteile, von den Polynesiern „Palolo“ genannt, werden von ihnen gegessen und darum seit alters gefischt. Die Behauptung der Eingeborenen nun, dass man die Palolo nur zweimal im Jahre, im Oktober und November, beide Male aber wieder nur in der Nacht von der Vollendung des letzten Mondviertels finde, hat sich in überraschender Weise bestätigt. Es fehlt nicht an vereinzelten Vor- und Nachzüglern, das große Schwärmen aber vollzieht sich stets mit einer verblüffenden Exaktheit am Tage vor dem astronomischen Eintritt des letzten Viertels, und zwar völlig unabhängig von der Wetterlage, namentlich auch von der Bewölkung.

            ―Die Geopsychischen Erscheinungen (S. 309-310)

[やぶちゃん注:私はドイツ語が全く分からない。困っていたところ、ツイッターで相互フォローさせて戴いている Feldlein(フェルトライン)氏が訳して下さった。以下、本注は全面的にFeldlein 氏の注と依拠したことを最初に述べておく。

 まず、Feldlein 氏の検証によって、底本原文のドイツ語の綴りの誤り(掠れ及び書法を含む)が多数発見された。Feldlein 氏が補正された箇所を掲げておく。即ち、上記のドイツ語引用パートは、そのままではドイツ語として読み難いと思われると私が判断し、Feldlein 氏が本文を訂して下さったもので示してあるということである。また、Feldlein 氏によればドイツ語の引用符は“Palolo”ではなく„Palolo“とする方が一般的であり、引用符の前後の間にはスペースを入れないと御指摘を頂いたのでそれに従った。また、全体の書記法を厳密に校閲した関係上、パロロの学名 Eunice viridis もイタリックに変更しておいた。本論文原本の綴りを確認されたい場合は(http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/947377/6)と対照されたい。

 

  【訂正後】      【訂正前】(底本の綴り)

Bestimmung                    Bestinmung

Geschlechtern                (底本は最後の「e」が掠れている)

Polynesiern                     Polinesieren

Behauptung                     Behaunptung

Jahre                             Jehre

November                       Novenber

letzten                            letzen

Vor- und                         底本は「Vor-und」のハイフンの後が字空けがない。

Feldlein 氏書法注:現代ではスペースを一つ入れます。1911年(原書発刊時)・1930年代前後(本新田論文発表時)の正書法にあっても、恐らく入れると思います。]

Nachzüglern                   Nachzuglern

große                             grosse

Feldlein 氏書法注:この方が正書法に則っていると思われます。この単語でsを二つ書くのは、エスツェットが書けないか、印字活字がない場合に限ると思われます。当時の日本での出版事情が原因かも知れません。]

Schwärmen                    Swärmen

einer                             einenr

Die Geopsychischen Erscheinungen(訂正後)

 Geopsychische Erscheinungen”(訂正前)

Feldlein 氏書法注:底本では、「„Geopsychische Erscheinungen“」と、冠詞が付いていません。しかし書誌を見ますと、題名には定冠詞 Die が付き、「Die Geopsychischen Erscheinungen」となっています。通常は、タイトルとページ数を書いて引用する訳ですから、常識的にはタイトルだと思われます。この箇所を変更する場合は、「Die Geopsychischen Erscheinungen」が適切です。出来れば、イタリック(斜字体)が良いと思います。これが書名ではなく章名かと疑ったのは、定冠詞の有無という理由以外に、書名なら引用符を付けずにイタリックで書くという理由もありました(章のタイトルであれば恐らくはイタリックにはしないでしょう)。なお、定冠詞付きの場合は、Geopsychischeという形容詞の語末にnが付き、Geopsychischen のようになります。さらに、書誌に於いて斜字体タイトルに引用符をつける必要はありません。]

(S. 309-310)                   (S.S. 309_310)

Feldlein 氏書法注:ページ数を表わす場合、ドイツ語ではSを繰り返す必要はありません。]

 

 次に、Feldlein 氏が分かり易く、原文と対応させながらパートごとに番号振って邦訳稿をお示し下さったものを掲げる。一部にFeldlein 氏の注も附した。

 

1) Das interessanteste Phänomen einer Bestimmung der „Geschlechtskrise“ durch die Mondphase bietet aber überhaupt nicht der Mensch, sondern ein sehr tiefstehendes Tier, der Palolowurm der Südsee, Eunice viridis.

 月の満ち欠けで「性別」が確定するという大変興味深い現象を見せるのは、しかし、人間ではなく下等動物、南海のパロロ蠕虫 Eunice viridis である。

Feldlein 氏注:「大変興味深い」は形容詞の最上級が用いられていますが、「幾つかを比較した上で一番面白い」という意味ではなく、「殊の外興味深い」という意味と思います。]

   *

2) Der Wurm lebt in den Gängen von Korallenriffen.

 この蠕虫は珊瑚礁のトンネル状の穴に棲息する。

Feldlein 氏注:「トンネル状の穴」珊瑚間に形成される通路状の空間か、珊瑚の死骸の積み重なりの間に出来た空間か、本文からは不分明です。]

   *

3) Er pflanzt sich in der Weise fort, dass bei beiden Geschlechtern zur gleichen Zeit sich die hintersten Segmente seines Leibes zu kurzem selbständigen Dasein ablösen, an die Meeresoberfläche aus schwärmen und durch Entleerung der Keimstoffe, die sich im Wasser mischen und so befruchten, die Entstehung neuer Individuen ermöglichen.

 生殖は、以下の方法による。両性とも同時に体の末端の体節が独立体として切り離され、海面へと群がり、胚胎物質を放出し、それが水に混じることで受精し、新個体の誕生が可能になる。

   *

4) Die abgestossenen Leibesteile, von den Polynesiern „Palolo“ genannt, werden von ihnen gegessen und darum seit alters gefischt.

 ポリネシア人が「パロロ」と呼ぶ、放たれた体の部分は、彼らに食され、昔から採取されてきた。

   *

5) Die Behauptung der Eingeborenen nun, dass man die Palolo nur zweimal im Jahre, im Oktober und November, beide Male aber wieder nur in der Nacht von der Vollendung des letzten Mondviertels finde, hat sich in überraschender Weise bestätigt.

 年に二回、十月と十一月の二回だけ、月相の最後の四分の一が終わる夜[晦の夜]にのみパロロが現れるという土地の人らの主張が驚くべきことに確認された。

Feldlein 氏注:「月相」月の満ち欠け。

「月相最後の四分の一」月の満ち欠けを四分割し、満月が新月へ再び欠けて行く、最後の四分の一。従って、月が欠けて新月になる最後の日、晦のことと思われます。]

   *

6) Es fehlt nicht an vereinzelten Vor- und Nachzüglern, das große Schwärmen aber vollzieht sich stets mit einer verblüffenden Exaktheit am Tage vor dem astronomischen Eintritt des letzten Viertels, und zwar völlig unabhängig von der Wetterlage, namentlich auch von der Bewölkung.

 この現象がちらほらと前後して散発的に見られないというより、天候に全く関係なく、いうなれば曇りでも、つねに驚くべき正確さをもって、月相最後の四分の一という天文学的現象の開始前の日に、この大いなる群がりが執り行われるのだ。

Feldlein 氏注:ここは、大きな[うようよした]うねりのよう蟻集/蟻聚なですが、文脈から偉大なという意味が込められているように思います。ここには「ちらほらと」という形容詞が加えられています。散発的にという言葉と共に冗長になりそうなので、後の通しの訳では省きましたが、原文には「ちらほらと」「孤立的に」という意味合いの形容詞がついています。]

   *

7) Die Geopsychischen Erscheinungen (S. 309-310)

『風土心理的諸現象』(309 - 310頁)

Feldlein 氏注:もしこの引用箇所 (S. 309-310) の章の名前が「風土心理的諸現象」ならば、一重の括弧、そうではなく、本の題名と該当箇所という表記ならば、二重括弧で『風土心理的諸現象』とするべきだと思います。私なら、次のように引用箇所を示します。

Willy Hugo Hellpach, Die Geopsychischen Erscheinungen: Wetter, Klima und Landschaft in ihrem Einfluss auf das Seelenleben, Leipzig: Wilhelm Engelmann 1911, S. 309-310. ヴィリー・フーゴ・ヘルパッハ『風土心理的現象気象・気候・風光の精神生活への影響』ヴィルヘルム・エンゲルマン、ライプツィヒ、1911年、309-310やぶちゃん注この引用書の原典に就いては、注の最後に示した

   *

 

 最後にFeldlein 氏の通し訳を示す。

 

 月の満ち欠け[月相]で「性別」が確定するという大変興味深い現象を見せるのは、しかし、人間ではなく下等動物、南海のパロロ蠕虫、 Eunice viridis である。この蠕虫は、珊瑚礁のトンネル状の穴に棲息する。生殖は以下の方法による。両性とも同時に体の末端の体節が短い独立体として分離し、海面へ群がり、胚胎物質を放出し、それらが水に混じることで受精がおこり、新個体の誕生が可能になる。ポリネシア人が「パロロ」と呼ぶ、分離して放たれた体の部分は、彼らに食され、昔から採取されてきた。年に二回、十月と十一月の二回だけ、月相の最後の四分の一が終わる夜[晦の夜]にのみパロロが現れるという土地の人らの主張が驚くべきことに確認された。この現象は前後して散発的に見られないのではなく、天候に全く関係なく、言うなれば曇りでも、常に驚くべき正確さをもって月相最後の四分の一という天文学的現象の開始前日に、この大いなる群がりが執り行われるのだ。

            ―『風土心理的諸現象』(三〇九~三一〇頁)

 

 なお、この引用元である「Die Geopsychischen Erscheinungen」という書物はドイツの医師で心理学者にして政治家でもあったヘルパッハ(Willy Hugo Hellpach 一八七七年~一九五五年)が一九一一年に刊行した書物である。シュレスウィヒ(ドイツ最北のシュレスウィヒ・ホルシュタイン州の北半、アイダー川からデンマーク国境に至る地域。ユトランド半島南部に相当する)に生まれ、実験心理学の父ヴィルヘルム・ブント(Wilhelm Wundt)の弟子となり、後に医学博士となった。バーデン州カールスルーエ工科大学私講師・バーデン州文相・バーデン州首相・ハイデルベルク大学教授などを歴任した。ブント以後のドイツの代表的民族心理学者・社会心理学者である。本書は地理的条件や気候などの精神に及ぼす影響を論じたもので、国際的に高く評価され、一九五〇年には「風土心理学」と改題されて版を重ねた(彼の事蹟は主に小学館「日本大百科全書」等を参照した。名前は「ヘルパハ」「ヘリパハ」とも表記)。本邦訳では「風土的精神現象」「地心理学的現象」「地理心理的現象」等と邦訳されている。これについては本稿を御確認戴いた際、やはりFeldlein 氏より、以下のような詳細な書誌を頂戴している。

   《引用開始》

 なお、今インターネットで見ておりましたら、該当書の和訳が大正四(一九一五)年に、ヘルパッハ(渡辺徹訳)『風土心理学』(大日本文明協会)として出ていることを知りました。

 また、どうやら類似の題名の本を二冊、この著者は書いているようです。

 引用されている方が、以下の書誌だと思われます。

Die Geopsychischen Erscheinungen: Wetter, Klima und Landschaft in ihrem Einfluss auf das Seelenleben, Leipzig: Wilhelm Engelmann 1911.

ヴィリー・フーゴ・ヘルパッハ『風土心理的現象:気象・気候・風光の精神生活への影響』

 この「副題」は、より原文の構造に近づけて訳すなら、「精神生活に対する影響における気象・気候・風光」です。

 類似のもう一つの著作が、

Geopsyche: die Menschenseele unterm Einfluss von Wetter und Klima, Boden undLandschaft, Leipzig : W. Engelmann, 1939.

ヴィリー・フーゴ・ヘルパッハ『風土心理:気象・気候・土壌・風光の影響下の人間精神』

 ページ数はどちらも三百頁以上あるので、場合によっては後者が改訂版かも知れません。

 タイトルの翻訳に関してだけ、記入しておきます。

 私は心理学的と思いこんで「風土心理学的諸現象」と訳しましたが、「学」に相当する部分がありませんし、二重カッコで『風土心理的諸現象』とした方が良いと思いました。あるいは、わざわざ複数形を強調せずに『風土心理的現象』とする選択肢もあります。原著の書誌は、以下のようですので、副題を訳すと以下のような感じです。

「気象」(Wetter)は、空模様・時候・天気と言い換え可能です。

「気候」(Klima)は、風土や空気とも訳せますが、一般に気候帯を意味しています。

「土壌」(Boden)は、土地・大地・地面と言い換え可能です。

「風光」(Landschaft)は、景観・風景・景色・風物と言い換えも可能です。

「精神」(Seele)は、霊魂と訳すことも可能です。

   《引用終了》

 以上、Feldlein 氏の細部に亙る原典の校閲と現代語訳を受けて、私は私にはとても乗り越えられない本電子化の難関を越え得た。ここに改めて、こうした出逢いを作って下さった本論文の著者「木場の赤ひげ先生」とともに Feldlein 氏に対し、心より感謝の意を表したい。―― Herzlichen Dank! ――]

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