耳囊 卷之十 船駕に不醉奇呪の事
船駕に不醉奇呪の事
附木(つけぎ)を着坐の下に敷(しき)、又は懷中なせば、不醉(よはざる)事奇妙の由。
□やぶちゃん注
○前項連関:なし。民間療法・呪(まじな)いシリーズ。TV番組「メディカルα」の公式サイト内の「乗り物酔いを防ぐクスリ」の「“江戸時代の駕籠酔い対策”から“宇宙酔い”まで」によれば、江戸後期の旅行ガイドブック「旅行用心集」に乗り物酔いについても書いてあり、『駕籠に酔う人は、駕籠のすだれを開けて乗りなさい』とあり(これは現在も通用する)、他にも、『南天の葉を駕籠の中に立てて、それをじっと見ていれば酔うことはない』というプラシーボ的なもの、酔って『頭痛がひどくて、気持ち悪くなってしまった人には、生姜の絞り汁を勧めて』おり、『熱湯に生姜の絞り汁を入れて飲めば、気持ち悪さも治まると』ある(これは生姜の健胃整腸効果から見ると正しい)が、船酔いについては、『船が浮かんでいるその川の水を一口飲む』とか、『船着場などの土を少し紙に包み、それを、へその上に当てていれば酔わない』という類感・共感呪術的なものが示されてあって面白い。
・「附木」松や檜の薄い木片の端に硫黄を塗りつけたもの。火を他の物につけ移すのに用いた。硫黄木。火付け木。そんなに大きなものではない。グーグル画像検索「付け木」を参照されたい。
■やぶちゃん現代語訳
船や駕籠に酔わないようにする奇なる呪(まじな)いの事
舟や駕籠に乗る際、附け木を着座の下に敷きおくか、または懐中しておれば、酔わないこと、これ、奇々妙々なる由。