橋本多佳子句集「命終」 昭和三十二年 薪能
昭和三十二年
薪能
火と風と暮れを誘ふ薪能
風早(かざはや)の暮雲薪能けぶる
指さえざえ笛の高音の色かへて
伏眼の下笛一文字に冴え高音
舞ひ冴ゆや面(めん)の下より男(を)ごゑ発し
春飇(はやて)面(めん)にて堪へてシテ立ち身
[やぶちゃん注:「飇」疾風。早手。「て」は「風」の意。急に激しく吹き起こって短時間でしまう風。]
春飇長絹透けるシテ立ちて
またたかぬ舞の面上風花うつ
笛冴ゆる老いの重眉いよよ重(おも)
薪能鴉の翼日を退け
[やぶちゃん注:底本年譜の昭和三二(一九五七)年五月十一日の条に、『奈良興福寺の南大門址の芝生で、能の四座演ずる薪能を観る』とある。]
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