耳嚢 巻之十 水病又妙法の事
水病又妙法の事
ひへをいりて粉にいたし、麥こがしの如く砂糖を調(てう)じ用(もちゐ)るに、浮腫の症に宜(よろしき)由。桑原某、年々足腫れて難儀の處、人の教(をしへ)にまかせこれを用ひしに、當年は甚だ少(すくな)き由、桑原かたりぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:浮腫(むくみ)民間治療薬三連発。
・「ひへ」稗。単子葉植物綱イネ目イネ科キビ亜科キビ連ヒエ
Echinochloa esculenta 。表記は「ひえ」が正しい。
・「麥こがし」大麦を炒って粉に挽いたもの。砂糖を混ぜて水で練って食べたり、菓子の原料にしたりする。はったい粉。香煎(こうせん)。
・「桑原某」不詳。「耳嚢 巻之二 吉比津宮釜鳴の事」の注で示した通り、根岸鎮衛の妻は桑原盛利の娘であるから、これは姻族の一人なのかも知れない。
■やぶちゃん現代語訳
むくみについての別のまた妙法の事
稗(ひえ)を煎って粉に致し、麦焦がしの如く、砂糖を加えてよく練り、それを患部に塗付すると、これ、浮腫(むくみ)の症状によろしいとのこと。
桑原某(なにがし)、毎年、足が腫れて難儀を致いて御座ったところ、人が教え呉れたに任せて、これを用いてみたところが、今年ははなはだ、むくみ、これ、少ないと桑原自身の語っておった。