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2015/04/05

耳嚢 巻之十 古猫に被害し事

 古猫に被害し事

 

 近頃の事の由、室町(むろまち)一丁目の町家にて、年久敷(ひさしく)猫を好み飼置(かひおき)しが、年を經たる故殊の外大きくなりたる故、鼠を取(とる)の業(わざ)もならず。其あるじの女房、近頃小猫を飼(かひ)て、右古猫は少しうるさく思ひし故、子猫の方を愛(めで)、古猫來れば頭などたゝきけるが、或日彼(かの)女房二階に晝寢したりしを、胴を喰(くらひ)つき其外所々食(くひ)つきし故、女房聲を立(たて)けれど誰(たれ)見付(みつけ)候ものもなく、向ふの家より見付、駈付(かけつけし)し故、家内其外打寄(うちより)しに、猫はにげたり。女房は無程(ほどなく)相果(はて)しに、猫奧の方へ入(いり)、自殺なしけるとなり。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:妖狐から妖猫へ異類奇談で連関。四つ前の「猫の怪の事」と強く連関する(あちらでは武士の妻が猫の死霊に憑依されるのであるが、やはり最後にはその妻も死んでいる点で強い連関性があるのである)。猫の怪としては短い乍ら、妖猫にテッテ的に喰いつかれる女房のシークエンスがホラー映画並みに凄惨である。事実とすれば、咬まれた女房がほどなく死んでおり、猫もほぼ同時に死んでいる点から、この猫は高い確率で狂犬病に罹患していたように私には思われる(ご存じと思うが、狂犬病は犬に限らず蝙蝠を始めとするあらゆる哺乳類が感染する。実際、狂犬病に感染した野良猫に引っかかれて感染したとされる広東省清遠市の六歳の男子の死亡例がある(「エクスプロア上海」の「What's New in 上海」   二〇一一年一月十三日附記事「広東省・拾ってきた猫とじゃれていた歳男児が狂犬病で死亡に拠る。『広東省衛生庁では』『男児の死因は狂犬病と断定した。男児は』『街で野良猫を拾い家に連れて帰って飼っていた』とある)。なお、ウィキの「狂犬病」によれば、本邦では記録が残る最初の流行は江戸時代中期の享保一七(一七三二)年、『長崎で発生した狂犬病が九州、山陽道、東海道、本州東部、東北と日本全国に伝播していったことによる。東北最北端の下北半島まで狂犬病が到着したの』は宝暦一一(一七六一)年のことである、とある。長崎……この時の流行は異国船によって齎されたものか?……思い出さないか?……怪しげなエイズ・ウィルス発見者(私はエイズを想像した悪魔の科学者と確信している)ロバート・ギャロが日本の鎖国時代に長崎の出島にサルをペットに連れてきた外人がおりそれが日本人のエイズの濫觴だというトンデモ説を述べていたのを!……

・「被害し」「がいされし」と読む。

・「室町一丁目」現在の中央区日本橋室町一丁目。日本橋北詰の町で老舗が軒を連ねた。現在の三越とその向かいの区画部分に相当。日本橋川川岸は旧魚河岸跡である。

・「愛(めで)」岩波のカリフォルニア大学バークレー校版では『愛し』で「あいし」と音読みしている。

・「胴」裸でもない限り胴に喰い付いくというのは様にならぬ。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版では『咽(のど)』である。それでこそ血も噴き出して凄惨、年老いた猫を虐待するこの下劣な女房が果てるというのもすっきり納得がいくのである。

・「自殺」猫が自殺したと何もほかに説明せずに書いてある場合、私は漱石の「吾輩」に限らず、入水自殺以外にはちょっと考えられない人間である。現代語訳ではそうした。しかしそうすると、先の私の狂犬病の恐水症状とは齟齬が生じる。まあ、怪談だからこの矛盾はお許しあれかし。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 古猫に害されし事

 

 近頃の出来事の由。

 日本橋室町(むろまち)一丁目の町家にて、年久しゅう猫を好んで飼いおいて御座ったが、年を経て御座ったゆえ、殊の外、肥満致いてしもうてもおれば、動きも鈍く、鼠を獲ることもままならずなっておったと申す。

 さても、そこの主(あるじ)の女房、近頃、別に小猫を飼うようになり――かの古猫(ふるねこ)がことは少々厭わしく思うよになって御座ったれば――この子猫の方をばかり愛(め)でて、古猫が寄って参ると、きつく頭なんど叩いたりしては、邪慳に扱(あつこ)うておった。

 そんなある日のこと、かの女房、家の二階にて昼寝して御座ったところが、かの古猫の来たって、

「ニャアアッツツ! グワッツ!」

と、女房の

――喉笛へ!

――喰らいついた!

「ぎゃああっつ!」

「フギャアアッツツ!」

――さらに!

――目鼻口耳と言わず!

――食いつく!

「ぎよぇええっつ!」

――女房! これ! 金きり声を挙ぐる!

……が……しかし……これ……誰(たれ)一人として……気づく者の、ない!……

……しばらく致いて、やっと向かいの家の者が二階より見かけて変事に気づき、かの家に駈け込んで知らせたによって、家内その外の者ども、うち寄って二階へと駆け上ってみれば、その咄嗟の間に――猫は――逃げた。……

 女房はそれより、ほどなく――相い果てた。……

 が……かの古猫……この女房の亡くなった日のこと……何処(いずこ)からともなく現われ……家人の知らぬうちに奧の方へと入り込み……厨(くりや)の水甕の中に――飛び込んで――自殺なして――御座った、と申す。……

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