橋本多佳子句集「命終」 昭和三十二年 高野行(Ⅱ)
切子燈籠
[やぶちゃん注:この高野行の年譜記載は先に続けて、『また、多佳子は、普賢院の切子燈籠(盂蘭盆に寺院の入口に吊る)の下に跼みこみ、句作に専念』とある。「跼みこみ」は「かがみこみ」と訓じているようである。「跼」は古くは「せくぐまる」で、体を前へ屈めて背を丸くすることで、かがむ・かがまる・こごむ・くぐまるなどと訓ずる。グーグル画像検索「高野山 切子燈籠」をリンクさせておく。但し、生憎、灯の点った夜の画像は見当たらないようだ。]
切子(きりこ)点く寂光濾せる紙の質
真の闇切子が山蛾欲りつ獲つ
火蛾生死(しやうじ)切子内界さしのぞく
切子火蛾よぶ殺生戒の身におもしろ
火蛾よべる切子より吾貪欲に
山蛾食ひ切子ふたたび明(めい)もどす
切子貪欲一山(いつさん)蛾族翔け参じ
切子長尾ただにしつまり燈が暗し
切子燈籠うしろが明しまわりて見る
火蛾捨身瀆れ瀆れて大切子
[やぶちゃん注:私の多佳子の句中、最も偏愛する一句。「瀆れ」は私はずっと「よごれ」と訓じてきた。]
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