橋本多佳子句集「命終」 昭和三十二年 奈良
奈良
沼みどり瞳しぼつて恋の猫
暮れ際に茜さしたり藤の房
藤昏るる刻の浪費をし尽して
切れ切れに雨降る藤の低きより
藤の房寄りあひ雨のだだ漏れに
やはらかき藤房の尖(さき)額に来る
仔鹿の脚雨の水輪に急(せ)かれをり
梢まで藤房重し一樹立つ
破損仏緑光堂の隙割つて
ものをいふ老顔の口緑さす
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