志賀理斎「耳嚢副言」附やぶちゃん訳注 「追加」 (Ⅷ)
一 下婢(かひ)の朝夕用ゆる手燭(てしよく)も、しばしば損じてわづらはしとて、松の板一尺四方のものに例のとづるを長くつりて、夫(それ)に細長き紙屑籠といへるものをうつぶせにさし込(こみ)て、中に蠟燭をともす。其具いくらといふ事もなくつくりて、次の間に並(ならび)おけり。
[やぶちゃん注:
・「一尺四方」三〇・三センチメートル四方。
・「とづる」私は当初、これは仮名の草書の「津」(つ)と「亭」(て)を判読し損なったものではないかと思った。「とつて」(取っ手)である。しかしそれでもどうもしっくりこない。「長くつりて」とあるから、これは「取り鉉(づる)」と合点した。「鉉」(つる)とは所謂、土瓶・鍋・急須などの上に半円状に渡してある蔓(かづら)などで出来た取っ手のことである。少なくとも「とづる」という語は小学館の「日本国語大辞典」にも近似する語さえ載らず、ネット検索でも掛かってこない。「吊り鉉(づる)」で訳した。
・「次の間」主人の居室の次にある部屋で、従者などが控える。
■やぶちゃん現代語訳
一 下女が朝夕に用いる手燭(てしょく)と申すも、これ、華奢な造りで、
「……あの市井に出回る手燭と申すもの、これ、如何にもちゃちで、しばしば損ずるが、まっこと、煩わしいのぅ。」
と申され、手ずから、松の板の一尺四方のものに、かの薬缶(やかん)の吊り鉉(つる)のようなる、藤蔓で作った半円の取っ手の頑丈な奴を結わい附けて長く釣り、それにまた、細長き紙屑籠(かみくずかご)にも見紛うような、しっかりした覆い籠をうつ伏せにさし込んで立てられ、中に蠟燭を灯すようにした、全く自前の灯明具をお作りになられた。
それを見本にさせた上、下男どもに、これまた数え切れぬほどに沢山、お作らせになられ、いつも次の間に並べ置いておかれて御座った。]
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