毛利梅園「梅園魚譜」 海鷂魚(マダラトビエイ?)
海鷂魚〔鳥ヱイ ハトヱイ 又、鳶と呼〕
鳶ヱイ。其觜(くちばし)、類せざる者、一種有り。
其の鳥の嘴(くち)はしとするは、是なり。赤ヱイ
の内の最下品なり。味、佳(よ)からず。
保亥二月七日魚商
吉五郎持ち來り、之を得て
寫眞す。
[やぶちゃん注:口吻部がスマート過ぎる嫌いがあるが、背面部の白い斑紋から見る限りでは、軟骨魚綱板鰓亜綱トビエイ目トビエイ科マダラトビエイ Aetobatus narinari かと思われる。同種はアヒルの嘴に似た平たい吻を持ち、尾はかなり長く、腹鰭の直後に二~六本の毒棘を有する。水族館では人気の高い魚である。但し、梅園の描いた図同定して解説した望月賢二監修「魚の手帖」(小学館一九九一年刊)では、『頭部を中心とする形態はガンギエイ類を想像させるが、棘(きょく)を備えた尾はアカエイ類の特徴である。また尾棘(びきょく)直前の背鰭(せびれ)はエイ類にはない』と解説されておられる。ガンギエイは板鰓亜綱ガンギエイ目ガンギエイ科 Rajidae に属する二亜科二十六属二百三十八種を含むガンギエイ目最大グループで多くは「カスベ」と呼ばれる。参照したウィキの「ガンギエイ目」によれば、『胸鰭は扇のように大きく広がり、体は上下に扁平で底生生活に適した形状となる。尾部は細長く、背鰭、尾鰭は小さいか存在しない場合もある』とある。しかし、どうも私は、自分の同定案を取り下げる気にならないのである(掲げたのは国立国会図書館デジタルコレクションの「梅園魚譜」の保護期間満了画像)。
「海鷂魚」「鷂」は猛禽類の鳥綱タカ目タカ科ハイタカ
Accipiter nisus 。「ハイタカ」とは「疾(はや)き鷹」の転訛で、トビエイ類の漢名としては如何にも相応しく凛々しい。
「本草綱目」には以下のように出る(国立国会図書館デジタルコレクションの「本草綱目」当該箇所を参考)。
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海鷂魚〔拾遺〕
釋名邵陽魚〔「食鑒」作少陽〕)・荷魚〔「廣韻」作※〕・鱝魚〔音忿〕・鯆魮魚(音鋪毗)・蕃蹹魚〔番沓〕・蠣〔時珍曰、海鷂、象形。少陽、荷、並言形色也。餘義莫詳。〕
[やぶちゃん字注:「※」=「魚」+「可」。]
集解藏器曰、生東海。形似鷂、有肉翅、能飛上石頭。齒如石版。尾有大毒、逢物以尾撥而食之。其尾刺人、甚者至死。候人尿處釘之、令人陰腫痛、拔去乃愈。海人被刺毒者、以魚扈竹及海獺皮解之。又有鼠尾魚、地靑魚、並生南海、總有肉翅、刺在尾中。食肉去刺。〔時珍曰、海中頗多、江湖亦時有之。狀如盤及荷葉、大者圍七腹白。口在腹下、目在額上。尾長有節、螫人甚毒。皮色肉味、俱同鮎魚。肉内皆骨、節節聯比、脆軟可食、呉人臘之。武食制云、蕃蹹魚大者如箕尾長數尺是矣。嶺表錄異云、雞子魚、嘴形如鷂、肉翅無鱗、色類鮎魚。尾尖而長、有風濤、即乘風飛於海上。此亦海鷂之類也。〕
肉氣味甘、鹹、平。無毒。〔時珍曰、有小毒。〕主治不益人〔弘景〕。男子白濁膏淋、玉莖澀痛〔寧源〕。
齒 無毒。主治瘴瘧、燒黑研末、酒服二錢匕〔藏器〕。
尾 有毒。主治齒痛〔陶弘景〕。
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「赤ヱイの内」現行の分類学上は、アカエイは同じトビエイ目
Myliobatiformes に属するものの、科以下のタクソンはアカエイ科アカエイ Dasyatis
akajei である。
「味、佳からず」現行、本邦では食用としては認知されていないが、食べられないことはないであろう。アンモニア臭云々という記載を見かけるが、鮮度が高ければ問題なく、錬り製品などの加工品には実際には混入しているのではあるまいか。国外の例示であるが、ウィキの「マダラトビエイ」には食用例記載がある(注19)。
「保亥」天保十年己亥(つちのとい)。西暦一八三九年。]
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