大和本草卷之十四 水蟲 介類 海膽
【外】
海膽 閩書曰殻※如盂外密結刺肉在内有膏香
[やぶちゃん字注:「囗」(くにがまえ)の中央に竪に一画。]
色土人以爲醬今按海島處々有之殻マロク刺アリ
テ栗ノイカノ如ク色黑シ筑紫ノ海人其カラヲ。カセト云其口
ハ殻ノ正中ニアリ殻ノ内ノ肉黄色ナリ肉ヲトリ鹽ヲ和シ
ナシモノトシテ味美ナリナシモノヽ第一上品トスヘシ梅雨ノ後
ヲサメヤウアシケレハ味變シテアシクナル脾胃ヲ補ヒ泄痢ヲ
止メ益于人泄痢ノ初發ニハ不可用
○やぶちゃんの書き下し文
【外】
海膽(うに) 閩書〔(びんしよ)〕に曰く、『殻、※〔(ゑん)〕にして盂〔(はち)〕のごとく、外、密に刺(はり)を結べり。肉、内の在り。膏〔(あぶら)〕有りて、香色〔(かういろ)〕。土人、以つて醬〔(ししびしほ)〕と爲す。』と[やぶちゃん字注:「囗」(くにがまえ)の中央に竪に一画。]。今、按ずるに、海島處々に、之れ有り。殻、まろく、刺ありて栗のいがのごとく、色、黑し。筑紫の海人〔(あま)〕、其のからを、「かせ」と云ふ。其の口は殻の正中(まん〔なか〕)にあり。殻の内の肉、黄色なり。肉をとり、鹽を和し、「なしもの」として味、美なり。「なしもの」の第一の上品とすべし。梅雨の後、をさめやう、あしければ、味、變じて、あしくなる。脾胃〔(ひゐ)〕を補ひ、泄痢を止め、人に益あり。泄痢の初發には用ふべからず。
[やぶちゃん注:棘皮動物門 Echinodermata ウニ綱 Echinoidea に属するウニ類。
「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。
「※」円の異体字か。
「盂」鉢。
「膏」肉の脂、脂肪。他に旨味の意もある。
「香色」黄褐色。丁子などの香料の煮汁で染めた色又はそれに似せた色のことを指す。
「醬」塩辛。
「がせ」「かせ」「がぜ」とも言う。奈良時代には使われていたウニの古名。
「なしもの」成物(なしもの)。塩辛・魚醤(うおびしお)・肉醤(ししびしお)の意。
「をさめやう」収め様。保存状態。
「脾胃」漢方では広く胃腸、消化器系を指す語である。
「初發」症状の初期。]
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