毛利梅園「梅園介譜」 水引蟹(ミズヒキガニ)
水引蟹(みづひきがに)【異品。猩〻(しやうじやう)ガニ。越前、魚名浦産。】
丙申(ひのえさる)林鐘(りんしよう)十一日、眞寫す。
[やぶちゃん注:節足動物門大顎亜門甲殻綱軟甲亜綱真軟甲下綱ホンエビ上目十脚(エビ)目抱卵(エビ)亜目短尾(カニ)下目ミズヒキガニ科ミズヒキガニ Eplumula phalangium の背面図(上)と腹面図(下)。和名は通常は概ね第四歩脚を水引の如く、上に挙げていることに由来する(本図のような描写から誤解されやすいが、眼柄に由来するものではないので注意されたい)。英名では最後歩脚の羽毛を矢に見立てて“Arrow crab”(アロー・クラブ)と呼称する。私の栗本丹洲「栗氏千蟲譜 巻十(全)」の図も併せて披見されたい。(掲げたのは国立国会図書館デジタルコレクションの毛利梅園自筆の「梅園介譜」の保護期間満了画像)。
「猩〻ガニ」色から、能で知られる真っ赤な能装束で飾った伝説上の動物猩猩(しょうじょう)に譬えたものであろうが、現行では一般に「ショウジョウガニ」というと短尾(カニ)下目アサヒガニ科アサヒガニ Ranina ranina の異名である。
「魚名浦」不詳。識者の御教授を乞う。
「丙申」天保七年丙申。西暦一八三六年。
「林鐘十一日」六月十一日。「林鐘」は陰暦六月の異名。中国音階の一つである十二律の八番目の音(本邦の「黄鐘(おうしき)」に相当する)で、詳しいことはよく分からないが、どうも陰陽五行説に照らして、この音を六月に配していることに由来するらしい。グレゴリオ暦では七月二十四日。]
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