大和本草卷之十四 水蟲 介類 赤螺
【外】
赤螺
大ニテ短シ内赤シ味美ナリカラニ鹽ヲ入ヲキテ
ハコヘノ汁ヲ別ニシホリ器ニ入ヲキテ蛤殻ニテニシノカラニ
少ツヽスクヒ入テヤクヘシ爲末齒ニヌル腫ヲ消シ痛ヲ止メ
齒ヲ固クス又湯ニ入テ口ヲスヽケハ久シクシテ目ヲ明ニシ牙ヲ
堅クス
○やぶちゃんの書き下し文
【外】
赤螺
大にて短かし。内、赤し。味、美なり。からに鹽を入れをきて、ハコベの汁を別にしぼり、器に入れをきて、蛤の殻にてニシのからに少づゞすくひ入れて、やくべし。末と爲して齒にぬる。腫れを消し、痛みを止め、齒を固くす。又、湯に入れて口をすゝげば、久しくして目を明にし、牙を堅くす。
[やぶちゃん注:腹足綱吸腔目アッキガイ科
Rapana 属アカニシ Rapana
venosa 。ここに記された効能については、金沢の漢方薬・生薬専門店「中屋彦十郎藥局」の「加賀藩の秘薬(六)」に加賀藩「御近習向留帳」(元禄五(一六九二)年記)に腫れ物や切り傷に「白五径」という処方が良いとあって、その調合生薬の中にアカニシが挙げられてあり、『細末にしてつければどんな症状にもいい』とあるのが参考になる。また、人見必大の「本朝食鑑」の「辛螺」の「殻」の項にも、ほぼ同一の調製法と効能の記載を見出せる。
「ハコベ」春の七草の一つであるナデシコ亜綱ナデシコ目ナデシコ科ハコベ属コハコベ Stellaria
media 。ウィキの「コハコベ」には、『民間療法において薬草として扱われることもあり』十七世紀には『本種が疥癬の治療に効果的であるとされていたほか、気管支炎やリウマチ、関節炎にも効果があるという意見もある。ただしこれらの主張は、必ずしも科学的な根拠に基づいたものではない』とし、『全草は繁縷(はんろう)という生薬で、利尿作用、浄血作用があるとされるが、民間薬的なもので漢方ではまず使わない』ともある。]
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