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2015/05/09

武蔵石寿「目八譜」 タイラギ磯尻粘着ノモノ

「巻十五 粘着」より

 

○タイラギ磯尻粘着ノモノ

 

M8_tairagi_hujitubo_gousei0

 

[やぶちゃん注:斧足綱翼形亜綱イガイ目ハボウキガイ科クロタイラギ属タイラギ(学名を記載しない件については後述する)に附着した(頻繁に多量に付着してタイラギの成長を阻害することが知られているので立派な寄生である)節足動物門甲殻亜門顎脚綱鞘甲(フジツボ)亜綱亜綱蔓脚(フジツボ)下綱完胸上目無柄目フジツボ亜目 Balanomorpha に属するフジツボの一種(二十七個体)の図。形状描写が簡略で絵からはフジツボの種を同定することは不可能であるが、実はこの「磯尻」は冊十二「異形」で種として項立てしている。それによれば――殻は厚くなく白い。殻底に向って広く丸い。海苔粗朶に粘着することなどが記載されているものの、読めば読むほど、複数のフジツボを一緒くたに記載しているようにしか見えないので、やはり同定の参考にはならない(当該箇所を電子化する際に再考する予定)。なお、十九世紀初めまで世界的にフジツボは貝と同じ軟体動物であると考えられており、武蔵石寿も冊十二「異形」で貝として驚くほど詳しく解説している。フジツボが海老や蟹の甲殻類の仲間であることが認識されるようになったのは一八二九年のことで、英国の軍医で優れた海洋動物学者・博物学者でもあったJ・ヴォーガン・トンプソン(John Vaughan Thompson 一七七九年~一八四七年) が甲殻類と同じく自由遊泳性のノープリウス幼生として孵化することを発見したことによる。その後、十九世紀半ばには、『チャールズ・ダーウィンがフジツボの系統的な研究を行い、フジツボの分類学的な基礎を築いた』のである(引用はウィキの「フジツボ」より)。なお、タイラギについては、長くタイラギ Atrina pectinata Linnaeus, 1758 を原種とし、本邦に棲息する殻表面に細かい鱗片状突起のある有鱗型と、鱗片状突起がなく殻表面の平滑な無鱗型を、生息環境の違いによる形態変異としたり、それぞれを Atrina pectinata の亜種として扱ったりしてきたが、一九九六年、アイソザイム分析の結果、有鱗型と無鱗型は全くの別種であることが明らかとなった(現在、前者は一応 Atrina lischkeana Clessin, 1891に同定されているが、確定的ではない)。加えて、これら二種間の雑種も自然界には一〇%以上は存在することも明らかとなっている(ウィキの「タイラギ」を参照)ため、日本産タイラギ数種の学名は早急な修正が迫られている。画像は底本の国立国会図書館デジタルコレクションの当該帖の画像を用いたが、この図は一枚の絵が中央部で改帖されて折り返されているために(前帖後帖の画像をリンクしておく)、画像では一体として見ることが出来ない。そこでオリジナルにそれぞれをトリミングして接合して示した。画像編集ソフトがちゃちなので(というか私が不器用なので)、上手くくっついていないところは御寛恕願いたい。また、「目八譜」全十五巻はこの図を以って終わっている。

「磯尻」冊十二「異形」の「磯尻」の冒頭に『形、塩尻の類して殻厚からず』とある。塩尻とは塩田で砂を円錐形に積み上げたもので、これに海水を汲み掛けては日に乾かして、塩分を固着させるのであるが、その形に似るから「磯尻」というというのである。]

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