四月短章 村山槐多
四月短章
一
玻璃の空眞(まこと)に強き群靑と
草色に冷たく張らる
かくて見よ人々を
木偶(でく)の如そこここに酒に耽れる
しかして
美しき玉の月日に悦びて
ただひとりはなれし君は
いと深き泉に思ふ
二
銀と紫點打てる
川邊にめざめ立ちし子よ
いま日はすでに西にあり
青き夜汝(なれ)をまちてあり
行け朧銀の郊外を
あとに都に汝は行け
三
善き笛の冷めたき穴に
こもりたる空氣をもれ
美しく歩み出でたる
君ひとり物のたまはぬ
四
血染めのラツパ吹き鳴らせ
耽美の風は濃く薄く
われらが胸にせまるなり
五月末日日は赤く
焦げてめぐれりなつかしく
ああされば
血染めのラッパ吹き鳴らせ
われらは武裝終へたれば
五
春の眞晝の霞に
鋭どき明り點(つ)けたる小徑あり
かたはらにたんぽぽのかたはらに
孔雀の尾の如き草生あり
そが小徑にのがれて
さびしくいこふ京人あり
美しく幽けき面
小徑がつけし明りの中に更に鋭どき明りをつけたり。
[やぶちゃん注:二箇所の「鋭どき」はママ。「全集」では二箇所とも「鋭き」となっている。また、本篇では表記の通り、「五」のパート以外ではパート内最終連最終行末尾に句点はないが、「全集」では「一」から「四」までの総てのパート内の最終連最終行末尾に句点が打たれている。]
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