橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 万燈籠
万 燈 籠
万燈の低きに混めりわが来し方
歩み高まり万燈の高まりゆく
万燈の夜を遠吠えの小稲妻
万燈の明り流水石底見せ
万燈籠地に焚ける火焰裂き
万燈籠とぎれてそこは溪の暗
万燈の廻廊のその赤光寂び
万燈やおのれ徹して一流水
裾の寒さよ万燈下の暗さよ
[やぶちゃん注:底本年譜の昭和三三(一九五八)年二月の条に、『三日、誓子と、奈良春日神社の万燈籠を見る』とある。春日大社では二月の節分と八月の中元の夜に全ての燈籠に火が灯され、それを万燈籠と呼ぶ。最後の句は多佳子にしては珍しい、かなり思い切った破調である。]
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