六月の遊歩 村山槐多
六月の遊歩
千花は銀のきらきらともつれたる
草生はにほひ大空は薄靑く
濁りし雲の影もなく晴れわたりたる
靜かなる日をそゞろ歩く
そは眞晝なりき
群靑の河上は未だ夜ならず
すべては明確なりき
螢は未だとばず
わが心のすきまよりもれ出でたる
朱紫のなげきはけむと消ゆ
わかき野の荊蕀のふせりたる
豪奢なる姿はそのけむに見ゆ
そは眞晝なりき
そゞろ歩は末路に近づきたりき
すべては明確なりき
都に燈は未だとぼらざりき。
[やぶちゃん注:「荊蕀」底本では「荊」の(くさかんむり)は(へん)の上にのみかかる。「荊棘」に同じい。「けいきよく(けいきょく)」で、薔薇や枳殻(からたち)などの棘(とげ)のある低木の総称。茨(いばら)、うばらの類。ここはこの「いばら」或いは「うばら」と私は訓じたい。最終連二行目の「そゞろ歩」は「全集」では「そゞろ歩き」と「き」を送る。]