赤きじゆばん 村山槐多
赤きじゆばん
血の如く赤きじゆばんは
美しき人の家の樓上にさらされ
おそろしき黄金の光に
かつと照りわたれり
淫情はわが眼に汗をぬぐひ
雨の如き樂音はわが眼にそゝぐ
血の如く赤きじゆばんは
太陽に強く思はれたり
點々と赤き血はじゆばんより
紫に打曇る天にしたゝり
また深き井戸の如くに沈思せる
わが靈にしたゝれり
ああわれはまたん
その主を美しきじゆばんの主を
あへかなる若き女を
この家の樓上に見出さんまで、
[やぶちゃん注:「あへかなる」はママ(「全集」は「あえかなる」)。第三連二行目の「紫に打曇る天にしたゝり」は、「全集」では「紫にうち曇る天にしたゝり」と「打」を平仮名とする。最終行末尾は「全集」では句点。]