踊りのあと 村山槐多
踊りのあと
靄のうち血の如く美しき
提灯の如あかき
あへかなる踊りの君は
踊りつかれて我による
踊りつかれて慕はしき
君が肌へわれにふる
晩春の光の刺は
君が肌へをかき破る
血の如く美しくして
うれしき踊りは
媚かしき疲れに導かれて
君が肌へをわれに投げかく
晩春にともしたる
赤き提灯の明るき
鬼薊の如き紫の
刺の身を刺す痛さ
君が汗はわれにのたくり
靄のうちに感動をつたふ
われは君が横顏を見つめたり
かなしみの來るまで恐ろしき戀しさに
あへかなる踊りの君は
この眞晝一踊りつかれて
いたましわれによる
なよなよと疲れに醉ひしれて
[やぶちゃん注:二箇所の「あへかなる」はママ。第五連の最終行は底本では「かなしみの來るまで恐らしき戀しさに」であるが、この「ら」は明らかに「ろ」の原稿の誤字或いは底本の誤植であると断じ(「全集」は無論、「恐ろしき」となっている)、訂した。]