日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十九章 一八八二年の日本 東京府癲狂院を視察する
私は家の近くの狂人病院を案内された。痴呆(デメンテイア)、憂欝病(メランコリア)、急性躁狂(アキュトマニア)その他の精神病にかかっている不幸な人人の顔面の表情が、我国の狂人病院で見受けるのと同じなのは、面白かった。
[やぶちゃん注:原文を総て示しておく。“I was shown through the insane
asylum near the house. It was interesting to see the same expressions on the
faces of these unfortunate creatures that one may see in going through our
asylums at home, — dementia, melancholia, acute mania, and other types of
mental disease.”「面白かった」という訳はやはり気になる。「興味深かった」でよい。
「狂人病院」“the insane asylum”の“insane”は“sane”の対義語で、「正気でない」「狂気の」、「精神異常(疾患)者のための」の意、“asylum”は原義が「避難」「亡命」「保護」でそこから「亡命者などの仮収容所」や「主に精神薄弱者・孤児などの保護施設」の意で昔使われた語で、「精神的機能不全或いは精神的バランスを失った人のための病院」の意であるが、「気違い病院」や「狂人病院」同様に多分に差別的で、現行では“psychiatric(mental) hospital(institution)”という。ここで彼が見学したのは、モースとビゲローに無償貸与された天象台の北の、道を隔てた直近にあった東京府癲狂院(東京都立松沢病院の前身)である。
「痴呆(デメンテイア)」現行では“dementia”は「認知症」である。
「憂欝病(メランコリア)」“melancholia”は、「鬱病」であるが、今は“Depression”或いは“Clinical Depression”及び“Depressive Disorder”が一般的で、一九九四年のDSM-IV(Diagnostic and Statistical
Manual of Mental Disorders「精神障害の診断と統計マニュアル」第四版)以降は、重度の狭義のそれを“Major Depressive Disorder”(大鬱病性障害)という診断名を下す。但し、この当時の精神医学では謂うところの「躁鬱病」、“Bipolar Disorder”(双極性障害)とこれを区別していなかったと考えてよく、私は寧ろ、この患者は双極性障害の鬱状態にある患者と考える。
「急性躁狂(アキュトマニア)」“acute mania”は訳すなら「急性躁病」であるが、現在、二〇〇〇年のDSM-IV-TR(TR は text revision:テキスト改訂版)以降、鬱状態の出現しない単極性躁状態が継続する病態であっても“Bipolar Disorder”(双極性障害/躁鬱病)と診断するため、前の「鬱病」とは異なり、「躁病」を精神疾患上の診断名として使うことはなくなっているはずである。]
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