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2015/06/04

毛利梅園「梅園魚譜」 トウジン/シマサキ/綳魚

 
 Huehukihoka3
 
元壽文政十二丑年六月九日芝髙輪の

瀕(ホトリ)待合と云へる茶屋に休息(ヤスラ)い、芝の朝河岸

より赤羽魚市え鬻(ヒサ)ぐ魚商夥(おびただし)くし、其の

中に魚荷桶(うをにをけ)ゑ此の三魚を鰈(カレイ)・牛尾魚(コチ)なぞの

中に交ゑて通り、又、予、眼に觸れたれば、僕(ボク)に是れを

調ひさし、則ち、茶店の座椽(ざえん)に於いて、小菊紙(こぎくがみ)に寫し

茶店の主(あるじ)、「何の用にならん。」と言へり。予、則ち、多

年、画筆を好みて、天下にあらゆる種品(しゆひん)眞寫せる

ことを荅(こた)ふ。主、曰〻(いふいふ)、「魚戸(サカナヤ)の運送(ハコビ)する者の中、各々(おのおの)も

知らざる魚、徃々、之れ有り。皆、毒あり、とて買はず。」と云へり。

予、時々、三田町(だいまち)寺院、又、泉岳寺に詣ず故、

芝河岸には異魚を鬻ぐ魚商の有ることを知る。

此の三魚、往還先なれば、食はざる「シマサキ」は、魚戸(さかなや)の、「食

ひし。」と云へるを聞(き)ゝ、舌味の説、其儘記す。三魚とも

何(いづ)れの産なるか、聞かず。魚は皆、茶店の小兒のもて

遊びに置く。今、玆(ここ)に其の小紙を操(と)り出し、着色清書

する。時に保十〔己亥(つちのとゐ)〕十月九日。

 

トウジン〔海魚。〕

カハセミ魚

 

シマサキ〔海魚。〕

  漢名不詳。肉、堅

  硬くして、味、美(よ)からず。皮、

  亦、至つて硬し。鱗の

  端(ハシ)、起(た)ちて鋭利(するど)く、

  肌、滑らかならず。

  冬月、稀

  に有り。

 

〔海魚。〕

 綳魚(はうぎよ)〔一種。〕

  〔ハコフグ。〕

  〔針フグ。〕

 

綳魚の類。甚だ※し。「箱フグ」と

云へる者、一種、別に有り、同名にして異(い)なり。

「魚譜」巻の二の条に出だす。「針フグ」も

前条に出、佐渡にて針千本と云ふ。河

豚(ふぐ)と同名、異(い)なり。此の圖する者、其の身

皮及硬く、針、鋭利(スルド)くして、手に觸るること

あたはず。食ふべき者に非ず。

[やぶちゃん字注:「※」=「繋」の「車」が「侖」。「身皮及」訓読不能。「身及び皮」の錯字か。]

 

[やぶちゃん注:以上の図(掲げたのは国立国会図書館デジタルコレクションの「梅園魚譜」の保護期間満了画像)は右の鮮やかな紅色を呈した個体から、

〇「トウジン」「カハセミ魚」と呼称する個体

 条鰭綱トゲウオ目ヨウジウオ亜目サギフエ科サギフエ Macroramphosus scolopax

左上方から下方の個体、

「シマサキ」と称する個体

 条鰭綱スズキ目スズキ亜目ハタ科ヌノサラシ亜科ルリハタ Aulacocephalus temmincki

「綳魚の一種」「ハコフグ」「針フグ」と呼称している個体

 条鰭綱フグ目ハリセンボン科イシガキフグ属イシガキフグ Chilomycterus reticulatus

と思われる(小学館一九九一年刊望月賢二監修「魚の手帖」も三種とも同じ同定である)。

 サギフエ Macroramphosus scolopax は、強く側偏した体と長い吻を特徴とする(成魚では絵のように背部の紅が大きな特徴のように見えるが、幼魚では銀色であり、また成魚の色の変異もかなりあり、グーグル画像検索「Macroramphosus scolopaxを見ても、薄いピンクから黄褐・銀と、必ずしも鮮やかな紅色を呈するわけではないことが分かる)英名の“snipefish”は特にその刎部が鳥のチドリ目シギ科タシギ Gallinago gallinago の(英名:snipe )長い嘴に似ることに由来する。以下、ウィキの「サギフエ」によれば、全長は平均十五~二十センチメートル、その内の約六センチメートルも吻が占めている。『体の表面は、胸鰭から背鰭にかけてと腹側の縁が骨板(甲板)に覆われ』、しかも二つの背鰭を持ち、一つ目の背鰭には四~七本の棘を有し、その中でも前から二番目の棘は長く伸びて鋭く、しかも鋸状を呈している。この棘は平均四センチメートルまで伸長し、二つ目の背鰭には十~十四本、尻鰭には十八~二十本の鰭条がある(但し、梅園の絵では第一背鰭が長棘のみしか描かれていない)。『サギフエはさまざまな海域の沿岸付近で見かけられる。大西洋東部のヨーロッパ・アフリカ沿岸や北海・地中海、大西洋西部のメイン湾からアルゼンチンにかけて、さらには太平洋西部やインド洋のアジア・オーストラリアおよび島嶼部の沿岸などにサギフエが生息して』おり、北緯二十から四十度の温帯域に於いて『特に広く分布している』。砂や岩の海岸沿いの水深二十五~六百メートルの大陸棚を好んで昼間の棲息域としており、『夜になると水面近くまで上がってくる。幼魚は外洋の表層水(de:Oberflächenwasser)の中で暮らす』(「de」は「Deutsch」でドイツ語のこと。「オゥバフレヒィンヴァサ」)。『彼らは小さな渦状の群れをなして育つ。幼魚はカイアシ類を餌とし、成魚は底生生物を探して餌とする』。『サギフエは同じトゲウオ目のヘコアユと同様、頭部を下に向けて泳ぐ習性をもつ』。魚体が小さいうえに、可食部分も少なく、『食用としての価値はない』(但し、ネット上の記載を見る限りでは、干物にし、また、焼き物にして美味くないわけではないようだ)。望月氏の前掲書によれば、ウグイス(高知県浦戸)・チュウチュウ(高知県御畳瀬(みませ))・ツノハゲ(高知県須崎)といった地方名が挙げられてあり、これら、何とも微笑ましいではないか。

 ルリハタ Aulacocephalus temmincki は「瑠璃羽太」で、生体では文字通り「青褐色(あおかちいろ)」(この色名は本来は正倉院文書に既に見られる古名である)、非常に美しい瑠璃色或いは紫がかった青で、吻端から上顎を経て、尾鰭までの体の背縁に沿って、目立った鮮黄色の帯を有する(グーグル画像検索「Aulacocephalus temmincki参照)。本邦では主に南日本に分布し、体長は約二十五センチメートルで口が大きく、背鰭は九棘十二本、尻鰭は三棘九本の軟条から成る。水深十~七十メートルの岩礁域に棲息し、危険を感じたり、ストレスを受けると、防禦毒と思われるグラミスチンを含んだ海水を泡立てるような粘液を皮膚から出すことで知られるが、ヒトに中毒性はない(以上は、主にウィキの「ルリハタ」を参考にした)。ネット情報では体色からであろうか、あまり食べたという記載がないが、以外に美味いともあった。梅園の絵の体色は死後、時間が経ったそれをよく写しているように思われる。望月氏の前掲書によれば、アブラウオ(和歌山県田辺・周参見(すさみ))・イシズミ(鳥羽)・アオハタ(伊豆)といった地方名が挙げられてある。

 イシガキフグ Chilomycterus reticulatus は、ハリセンボン科 Diodontidae であるが、有意に棘が短く、梅園の言うようには鋭くない(以下の引用を参照。こうして考えると本図のそれは別種のようにも見えるが、恐らくはこの叙述、これを商っている魚商人の語りであり、その人物はハリセンボンと一緒くたにしておどろおどろしく語ったものとすれば腑に落ち、その如何にもハリセンボンのようになって自慢げに語る魚屋の大将の姿もこれ、髣髴としてくるようで、すこぶる私は楽しくなってくるのである)。ハリセンボン属ハリセンボン Diodon holocanthus 同様、世界の温帯から熱帯水域に分布しており、本邦では茨城県以南に見られる。サイト「プライベート・アクアリウム」の「イシガキフグ」によれば、『体は縦扁し、頭部は大きくて、体表には太くて短い棘を持って』おり、『体色は背面が濃灰色で、腹部は明るく、体には暗色の』四~六本の『横帯がある』。『他のフグの仲間と同様、腹びれはないが、各ひれには暗色の斑点が多数見られ』、『口は吻先にあって、案外幅広い感じがする』『また、イシガキフグは水や空気を吸い込んで体を膨らませる事は出来るが、体表の棘はハリセンボンのように鋭くはなく、立てたりすることもできない』。『水深の浅い海岸近くの珊瑚礁や岩礁域に多く生息しているが』、水深百メートル程度までの水域『にも見られ、熱帯域では更に深いところにも生息しているのでないかと言われている』。『普段は単独で生活していて、主に甲殻類や軟体動物を食べる』。通常は全長五十センチメートル程度であるが、大きいものでは八十センチメートル、体重で十キログラム近い巨大個体もいるとある。『岩穴などに潜んでいることが多いが、他のフグの仲間と同様、動きは鈍く、胸びれを使って泳いでいる姿などはユーモラスでもある』。『海面近くをのんびりと泳いでいることもあり、磯釣りなどでも、餌をついばんでいる様子が見えたりもするほど警戒心が薄い』。『イシガキフグは無毒とされているので時に食用にされるが、一般にはほとんど流通していない』。『しかし、鍋物や味噌汁にするとかなり美味しいものと言われていて、大きいものもフライや唐揚げなどにすると美味しいとされている』とあり、他サイトでは刺身では不味く、味噌汁や鍋を推奨している。無論、ハリセンボン類同様に無毒であり(但し、ハリセンボンの卵巣は毒化したものがある場合があるという報告もあるので、食さない方が無難である)、少なくとも「食ふべき者に非ず」ではないですぞ、梅園先生。望月氏の前掲書によれば、イガフグ(下関・和歌山県田辺)・イバラフグ(和歌山県周参見)・コンベ(新潟)・バラフクト(高知県沖ノ島)・トーアバター(沖繩)といった地方名が挙げられてある。

「元壽文政十二丑年六月九日」原典では「政」の字派「正」の下に「攵」を合成した字である。西暦一八二九年七月九日。

「瀕(ホトリ)待合」固有名詞と採る。

「座椽」店先の縁台のことであろう。そこでなければ、往来の魚屋の行き来を細かに観察することは出来ない。

「小菊紙」茶菓などに添えた手漉きの美濃紙。懐紙のこと。以下の主人との応答、眼の前に現前するように感じられ、とても、いい。

「三田臺町」現在の港区の三田、旧三田台町。寺院と武家屋敷が林立していた。

「保十〔己亥〕十月九日」西暦一八三九年十一月十四日。最初に書写してから、実に十年後の着色と清書である。彼の作業の実体が知られて興味深いが、恐らくは色のなどの指定が原図にはあったに違いない。

「トウジン」現在、サギフエの別名としては確認出来ないが、この「トウジン」は別に現在、深海魚の条鰭綱タラ目ソコダラ科ソコダラ亜科トウジン属ゲホウ Caelorinchus japonicus の別名として知られる。本種は深海魚(但し、深度五百メートル以内の浅い深海性)らしく異形で、頭部が突出し眼が大きい。サギフエも「鼻」が高く、「目玉」が身体に比して有意に大きい。これらから考えると、刎部の突出を「鼻」と捉え、どんぐり眼(まなこ)の異形から「唐人」と名付けたものと推定出来るように思われる。サギフエの鮮やかな紅も如何にもそれらしいではないか。

「カハセミ魚」現在、確認出来ない別名であるが、鳥綱ブッポウソウ目カワセミ科カワセミ亜科カワセミ Alcedo atthis は胸と腹と眼の前後が強い橙色を呈し、足も赤いから、この別名もおかしくはない。

「シマサキ」この別名は現在、確認出来ない。

「堅硬くして」「堅硬く」で「かたく」と読んでいるらしい。

「綳魚」寺島良安「和漢三才圖會 卷第五十一 魚類 江海無鱗魚」に「すゝめうを 海牛 うみすゝめ 綳魚」がある。良安の記載から、明の盧和(ろわ)原撰(一五〇〇年前後)・汪穎(おうえい)補編(一五五〇年頃)になる通常の食物となるものに限った本草書「食物本草」から引いた漢名であることが分かる。「綳魚」の「綳」は「繃」で、「たばねる」の意。これはまさにハリセンボン Diodon holocanthus の通常時、怒張していない時の棘を畳んだ状態を指し示していると私は解く。リンク先(私の電子テクスト)を是非、参照されたい。

「ハコフグ」現行では全くの別種であるフグ目ハコフグ上科ハコフグ科 Ostraciidae に属する、皮膚に骨板が発達し、多数が結合して全身を装甲する硬い箱状に見える甲羅を成すハコフグ類を指すので当時の和名とのずれに注意されたいが、梅園はその辺りをしっかり認識していて、本種の個体形状よりも、当時、広範に「ハコフグ」と呼ばれたそれらが、異種であることをちゃんと述べている点に着目されたい。

『「魚譜」巻の二の条に出だす』これは現在、「梅園魚品図正」と呼ばれているものの巻二を指す。本カテゴリでは向後、これも梅園の呼称に準じて、同図も「梅園魚譜」として引くこととし、当該の「箱フグ」を近日公開する。
 
『「針フグ」も前条に出』これは本篇の本「梅園魚譜」の前の方に出る。これも近日公開する。
 
「河豚と同名、異なり」「河豚と同名なるも、異なり」の意。

「其の身皮及」「其の身及び皮」の錯字か。]

 

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