橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 岩山
岩山
岩山を蝶越ゆ吾も幸福追ふ
薄明界味は眼よりも翅信じ
草あらし香を奪はれて百合おとろふ
濃夕焼泥田をいでず泥夫婦
囲の蝶のもがきに蜘妹のともゆれる
蚋入りしわが涙眼のたしかに醜
菖蒲園かがむうしろも花暮れて
万緑の中層々と贋アカシア
梅雨泥の靴裏汝(なれ)の寝つづかしめ
西日の仮睡汝の荷汝をかばひ
森いでて女(め)たる隠さず新毛鹿(あらげじか)
穂草八方いづこかに仔鹿が隠れ
袋角脈々と血の管通ふ
農婦帰る青田をいでて青田中
« 橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 蝶の翅 | トップページ | 橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 祇園祭 »

