橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 蝶の翅
蝶の翅
蝶の翅ひたひた粗朶の永乾き
桃桜野良ごゑ出せば胴ひびき
負ひ帰る海髪(うご)の滴り濡れついで
[やぶちゃん注:「海髪」紅色植物門紅藻綱オゴノリ目オゴノリ科オゴノリ Gracilaria vermiculophylla 。当初、実際の海女の髪を言っていると面白いとちらと思ったが、それでは季語が隠れるし、負って帰るのはやはり、絡みついた海髪(おごのり)であろう。]
四方風樹仔雀を地に置放し
風騒ぐ緑蔭の幹背を凭せ
潮出づる海女がぴつたり肉つつみ
御木本養殖真珠工場
うつうつと母貝の醜(しこ)蓋核入れ後
[やぶちゃん注:下五は音数律なら「かくいれご」だろうが、私はどうも「かくいれ/のち」と読みたい気がする。]