甲子夜話卷之一 40 有德廟の御膳に蟲有し始末の事
40 有德廟の御膳に蟲有し始末の事
德廟の御時、いかゞの過にや、御膳の御食器の中に、はさみ蟲と云ふ蟲の入て有けるに、人々大に驚入て、御膳に預る者は、皆罪を何申せし時、政府にも死刑に當るべきやなど評したり。然れども先づ上旨伺はんとて申出たるに、上意には、其蟲いまだ有やと、御尋に因て、勿論貯置候と申上たれば、夫を膳に預し者に食(クハ)せよと有たれば、其者ども皆死を分としたれば、此等のこと厭までもなく、快く食しける。夫よりして上意には、彼者はいかゞ別條なきやと、再々上意あり。別條無く候と申上れば、見よ、彼蟲は毒は無きものよ。我も亦無事なり迚、其餘の上意は無りし故、其沙汰止て、いづれも故(モト)の如く勤役せしとぞ。百載の後に聞も涙出て、悉く思奉る也。そのとき其輩の心持いかばかりなりけんと押はからる。
■やぶちゃんの呟き
「德廟の御時」これ、吉宗でなかったらと考えた時の方が、キョワイ。
「過」「あやまち」。
「はさみ蟲」節足動物門昆虫綱ハサミムシ目
Dermaptera 。ウィキの「ハサミムシ」をリンクさせておく。