橋本多佳子句集「命終」 昭和三十三年 白鳥行
白 鳥 行
汽罐車のよこがほ寒暮裏日本
雪の駅ピアノ木箱を地膚の上
野の雪雲集(よ)りて仕へて白大山(はくたいせん)
駅炉の煖盗む白鳥行に暮れ
白鳥を恋へる眼に鳶鷗翔つ
風颯々白鳥の鋭目(とめ)切れ長に
尻重き翔ちぎまの鴨白鳥湖
白鳥渡来日本の白嶽瘦せ
雪嶽越ゆ白鳥の白勝ちて
日の寵は白鳥にのみ鴨翔ける
漁る白鳥主婦は下身に雪の泥
「レダ」の白鳥出雲白鳥像かさね
低雲の一日駅夫と白鳥と
月ある闇白鳥光は寄りあひて
楫(かぢ)の音夜目の白鳥追はれゐる
一夜吾に近寝(ちかね)の白鳥ゐてこゑす
[やぶちゃん注:底本年譜の昭和三三(一九五八)年の条に、『一月ごろ宍道湖の白鳥を見に、清子同伴で松江に行く。松江の岩田屋旅館に泊まる。しかし』白鳥(年譜には『白馬』とあるがまさに「烏焉馬(うえんま)の誤り」であろう)『は松江にはいず、松江の近くの入り江秋鹿(あしか)で十数羽を見る。夜も見たく、夜の鳴き声も聞きたく、湖岸にある秋鹿荘という公務員の寮に行くが、公務員で無いので断られる。どうしても一泊したく、公務員で俳人の西村青渦(裁判官)に気がつき、電話連絡、その尽力により許可される。ここでは湖際に親しく白鳥を見ることが出来た』とある。]
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