情調 村山槐多
情調
(未來の日本未曾有のわが大戲曲『五色殺載』の參考)
櫻より生れし人は賑やかに
五つの町をかたづくり
美しき提灯は晝もなほ
薄くれなひにともしたり
樂しげに濕りたる空に鳴けり
小鳥群れなく
寶玉の如めざましき空の豪奢も
たけなはに靑く鳥なく
かくて我耳の底には
ぼかしたる音樂を沈めて積みぬ
櫻の町の一人はわれに近より
おもちやにすわが性をひたおもてより
街道に人はみなふりかへりつゝ
遠方に銀紙の如く見ゆ
湖は晝なるに燈をともしつゝ
燈ともして船浮びたり
すべて我霞に醉ひて
美しき提灯の燈にうき立ちぬ
君が眼は靑く鋭く凄くして
春の日の凝視つづくる。
[やぶちゃん注:「薄くれなひ」はママ。]