ガランス 村山槐多
ガランス
このガランスは一本が二圓ちかくした
だがこれをぎゆつとしぼり出す事は
何たる快樂だらう
二圓はどぶの中へでもとんでしまへ
このガランスが千圓しても高くはないぞ
これをぎゆつとしぼり出す事は
女郎買よりも快樂だぞ
二圓で酒が一本ついて一晩まはしがなかつたより
たしかにガランスは德だ
ガランスの快樂は善い
[やぶちゃん注:本篇は次の知られた「一本のガランス」と合わせて創作されたものと思われる(クレジットがこの詩篇にはなく、前後にはある点に着目されたい。)
「ガランス」色名。garance(フランス語)。御存じ、槐多の好きな茜(あかね)色・朱赤色・やや沈んだ紅色の絵の具こと。
「二圓」ネット情報によれば消費者物価指数で換算すると、この大正七(一九一八)年(米騒動による物価急騰で円の価値が急速に下がった年である)。の一円は現在の千七百五十円とあるから、チューブ絵具一本で三千五百円相当であるが、例えば、銀座「ライオン」のビールは一杯十八銭、映画二十銭、小学校教員の初任が十二円から二十円とあるから、実際の感覚からは、もう少し高い感じはする。
「まはし」江戸の「回し」から想像すると、一晩で女郎が複数の客を掛け持ちすることで、実際の目当ての女郎と結局、床入り出来ないことを言うことになるが?……う~ん……識者の御教授を乞うものである。]