三十三間堂 村山槐多
三十三間堂
金紫の雲は赤き燈を隱して天を過ぎ
太陽は發射す強き光彈を
痛ましき美しき一眞晝
傲然と三十三間堂輝やく
薄暗き貴人の家の群集の中に
淫婦が産みたる童のみの恐ろしき群の中に
美しきかな古き古き三十三間堂は
一體の銅佛の如く神々し
ああ三なる數字よ
汝はギリシアの數字にして
またこの堂の數字なり
この黑くけはしくまた美しき堂の數字なり
三万三千三百三十三體の黄金の死物は
この三十三間堂の主なり
赤き彩色は磨滅したり
かつと屋根は輝く
激(はげ)しき塵は舞ふ燦爛(さんらん)と
この古堂の周圍を
太陽は赤し靑し天空に
この貧人の町の空に
三十三間堂は輝き奇怪なる射的は
圓く三十三間堂につらなる
失はほのかに飛ぶ三十三間を
その響きの奇しさよ
沈默せり三十三間堂
堂のあまたの扉は閉され
痴愚なる旅人と汚き貧人と
三万三千三百三十三體の佛像に戯れたり
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