戀人に 村山槐多
戀人に
金剛石坑夫がざくろの樣な一つを見つけたより
私はそなたに出會はした時に喜ぶ
ぎよつとする、ぶるつと來る
そう言ふ時そなたはいつでも下を向いてしまふが
この次にはまつすぐに私の限を見つめて見な
私の眼はびつくりする程輝やいて居るから
恐らくそなたもまたその眼を
素晴らしいダイアモンドと見まちがへるだらう
×
響よりとらへにくいそなたの心
光にも似て
高かつたり低かつたり
強かつたりよはかつたり
とらへにくいそなたの心
×
電車は電氣で走れ
私は愛で動く
愛が私をあやつる
私を晩から夜半までもはたらかせ
火花の散る程かけまはらせる
私をさか落しにし
私を天へつきとばし
私に私を忘れさせる
愛よ
強い力のある愛よ
めつたに私にのりうつるなよ
[やぶちゃん注:「そう言ふ時」「よはかつたり」はママ。
第四連(「×」区分の第三パートの第一連末尾)の
私に私を忘れさせる
愛よ
強い力のある愛よ
の部分の「愛よ」は、「全集」では何故か「愛よ愛よ」とリフレインされている。これも詩稿でも見つかったものなのか? 不審である。]