死と過去と 村山槐多
死と過去と
わが過去は汚れし玻璃の器なり
正倉院の玻璃にして
古き豪奢の遺物は
ほのかにもわが心の倉に輝やく
ああかなしきかな
わが心を領したる鬼は嗟嘆す
一切は古び一切は汚れたり
靈も何もわが世も
わが未來は豫測せられたる新奇に滿たさるるのみ
その先に狂人の面は浮ぶ
ああ苦痛よ、赤きなさけよ
汝はいま古き布の如くわが過去の玻璃をかくせり
死はわが前にうらわかき女の如く
その豐なる双手をひろげたり
われは抱かれんかな
その實しき裸體の胸に
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