甲子夜話卷之一 44 新太郎どの旅行に十三經を持せらるゝ事
44 新太郎どの旅行に十三經を持せらるゝ事
新太郎少將、旅行の時は、前行の諸武具は、世の作法通りにして、駕の先へ十三經の筥をわくに納(イ)れ、着料の具足櫃と同く持せしとぞ。
[やぶちゃん注:「新太郎」備前岡山藩初代藩主の外様大名池田光政(慶長一四(一六〇九)年~天和二(一六八二)年)の通称。元和九(一六二三)年、第三代将軍徳川家光の偏諱を受けて光政と称する。姫路から鳥取を経て岡山に入城、三十一万五千余石を領した。幼時より学を好み、中江藤樹に師事、藤樹没後は熊沢蕃山を国政顧問として重用した。諸制を改革、文武を奨励して藩政改革に尽力、外様乍ら、幕府も一目置いていた名君として知られる。
「前行」「ぜんかう(ぜんこう)」貴人の外出の際に行列の先に立つ役方。
「十三經」「經」は「けい」とも「ぎやう(ぎょう)」とも読む(私は仏典と区別するために「けい」と読むことにしている)。宋代に定められた儒家の基本的経典とされる十三種。「周易」(易経)・「尚書」(書経)・「毛詩」(詩経)・「周礼(しゆらい)」・「儀礼(ぎらい)」・「礼記(らいき)」・「春秋左氏伝」・「春秋公羊(くよう)伝」・「春秋穀梁(こくりよう)伝」・「論語」・「孝経」・「爾雅(じが)」・「孟子」。
「筥」「はこ」。
「わく」不詳。完全密封式の葛籠ではなく、枠張りの箱外から中身の見えるもののことか。
「着料」「きれう/ちやくれう(きりょう/ちゃくりょう)」。衣服。
「具足櫃」「ぐそくびつ」。甲冑を入れておくための蓋付きの箱。]