恐らく未だ嘗て並んで掲げられたことがないであろう村山槐多の「陰萎人の詩句」二篇を並べてみた
ここで既に公開し、注も附したが、ここで並べておきたくなった(専ら村山槐多自身のために)。但し、「Ⅰ」についてはハンセン病患者に対する謂われなき差別感覚が含まれいているので、当該公開記事の私の注を必ず参考にされ、そうした部分に対しては批判的視点を持ってお読み戴くようお願いする。
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陰萎人の詩句Ⅰ
XSに、
ああ、あなた、美しい眼のひと
薔薇の根から見た靑空の樣に美しい眼の持主、
それはほんとですか、
あなたが、この美しいうらわかい女が
生身から引はがした孔雀の皮の樣に美しい人が、
滴る血の樣に生々したあなたの樣なお孃さんが
まつたくなのですか
ほんとですか、ほんとですか
ああ、あなたのとろめく眼ざし、死なぬ螢、
ああ、あなたの輝く唇、熱あるルビー石、
ああ、しなやかな全身につたの樣にからまつた、
あなたの若さと、やさしさと戀とたましひ、
ああまつたくほんとですか
あなたが、あなたが、あなたが、
ああ、あなたが
あの恐ろしい Rai-byo だと云ふ話は、
そんなことは大した事ではないが
ほんとですか、お孃さん、
うそでせう、
×鏡の中の自分に、
ほんとかね、おい、おい、おい、
この立派な靑年が
この美しい豐年のりんごが
ルネツサンスに居さうな智と健康とに輝いたこの男が、この美少年が、
この力士が、この少尉が、
ほんとかね、ほんまかね、
おい、おい、ほんとかね、
お前がたしかに、
Rai-byo で陰萎だと云ふ話は
うそだらう、 ――十二、二、
陰萎人の詩句Ⅱ
×
草花のしぼむ樣に、
つかれてしぼむだわが□□よ、
×
しぼみしぼみゆく□□のうれひを
もみけす、酒、女、
オペラの音樂、
赤い松の木、
靑い空、
ああ、
×
ねむの木がさはつたらねむつた、
女よ、薄いガランスの絹布よ
わが□□をねむらせて、
×
顫へてしぼむ□□
氣體となりゆく寶石の柱、
×
喉をいためるとて
たばこをよす男を輕蔑す、
血をはくからとて
酒をのまぬ男をわらう、
しかし、
×
日が眞紅のベラを出す
女もベラを出す、
カフエの夕日、
さびし、かなし、
×
風はさぶし
わが顏お能の面のごとし
風に怒れ、
風を叱れ、
×
淸きあの女
ふさはしや
陰萎のわたしに
×
女は猩々の樣にあかくなつて
ソーダをすする、
魔女の休息だ
さて彼はいまだ飮みつづけて居る、
強いつよいコニヤツク
×
淺草の酒、
十二社のさけ
して代々木の酒、
うまい、いづれもうまし
×
血が出る
肺から
こはれたふいごから、
心から、
――一月二十二日