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2015/07/24

譚海 卷之一 またゝび猫の好事

 またゝび猫の好事

またゝびを火に焚(たく)ときは、香の至る所の猫ことごとく煙をしたひきたり、火邊に展轉俯仰し、狂氣したるがごとく涎(よだれ)をたり正體(しやうたい)を失ふ。數十疋群(むれ)をなす事也。又人疝氣(せんき)にて腰痛堪(たへ)がたきには、蓼(たで)をせんじ用ゆれば立處(たちどころ)に愈(いゆ)る事神(しん)の如し。

[やぶちゃん注:「まゝたび」双子葉植物綱ツバキ目マタタビ科マタタビ Actinidia polygamaウィキの「マタタビ」によれば、『蕾にタマバエ科の昆虫が寄生して虫こぶになったものは、木天蓼(もくてんりょう)という生薬である。冷え性、神経痛、リューマチなどに効果があるとされる』とあり、ここで「粉」と称するのもこれであろう。「夏梅」という別名もある。他にもこのウィキの記載は短いながら興味深い箇所が多い。幾つか引用すると、まずマタタビは雌雄異株で、『雄株には雄蕊だけを持つ雄花を』、雌株は『花弁のない雌蕊だけの雌花をつける』が、雌株には『雄蕊と雌蕊を持った両性花をつける』ものがある(ここは他の記載で一部操作した)。六月から七月にかけて開花するが、『花をつける蔓の先端部の葉は、花期に白化し、送粉昆虫を誘引するサインとなっていると考えられる。近縁のミヤママタタビでは、桃色に着色する』とあり、所謂、ネコとの関係については、『ネコ科の動物はマタタビ特有の臭気(中性のマタタビラクトンおよび塩基性のアクチニジン)に恍惚を感じ、強い反応を示すため「ネコにマタタビ」という言葉が生まれた』。『同じくネコ科であるライオンやトラなどもマタタビの臭気に特有の反応を示す。なおマタタビ以外にも、同様にネコ科の動物に恍惚感を与える植物としてイヌハッカがある』とし(キク亜綱シソ目シソ科イヌハッカ属イヌハッカ Nepeta cataria。但し、本邦には元来は自生しない帰化植物。ウィキイヌハッカ」によれば、『日本ではキャット・ミントと呼ばれることもあ』り、『種名のカタリア(cataria)はラテン語で猫に関する意味があり、また英名の Catnip には「猫が噛む草」という意味がある。その名の通り、猫はこのハッカに似た香りのある草を好むが』、『これはこの草の精油にネペタラクトンという猫を興奮させる物質が含まれているからである。猫がからだをなすりつけるので、イヌハッカを栽培する際には荒らされることも多いが、この葉をつめたものは猫の玩具としても売られている』。『なお、猫に同様の効果をもたらす植物としてマタタビや荊芥』(けいがい:同イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia)『などがあるが、日本において特に有名な前者にちなみ、イヌハッカは「西洋マタタビ」と呼ばれることもある』とある)、和名の由来については、『アイヌ語の「マタタムブ」からきたというのが、現在最も有力な説のようである』。「牧野新日本植物図鑑」(一九八五年北隆館刊/三三一頁)によると、『アイヌ語で、「マタ」は「冬」、「タムブ」は「亀の甲」の意味で、おそらく果実を表した呼び名だろうとされる。一方で、『植物和名の研究』(深津正、八坂書房)や『分類アイヌ語辞典』(知里真志保、平凡社)によると「タムブ」は苞(つと、手土産)の意味であるとする』。『一説に、「疲れた旅人がマタタビの実を食べたところ、再び旅を続けることが出来るようになった」ことから「復(また)旅」と名づけられたというが、マタタビがとりわけ旅人に好まれたという周知の事実があるでもなく、また「副詞+名詞」といった命名法は一般に例がない。むしろ「またたび」という字面から「復旅」を連想するのは容易であるから、典型的な民間語源であると見るのが自然であろう』とある。博物学と民俗学が美事に復権した素晴らしい記載である。

「疝氣」は近代以前の日本の病名で、当時の医学水準でははっきり診別出来ないままに、疼痛を伴う内科疾患が、一つの症候群のように一括されて呼ばれていたものの俗称の一つである。単に「疝」とも、また「あたはら」とも言い、平安期に成立した医書「医心方」には,『疝ハ痛ナリ、或ハ小腹痛ミテ大小便ヲ得ズ、或ハ手足厥冷(けつれい)シテ臍ヲ繞(めぐ)リテ痛ミテ白汗出デ、或ハ冷氣逆上シテ心腹ヲ槍(つ)キ、心痛又ハ撃急シテ腸痛セシム』とある(「厥冷」は冷感の意)。一方、本「譚海」の「卷の十五」には、『大便の時、白き蟲うどんを延(のば)したるやうなる物、くだる事有。此蟲甚(はなはだ)ながきものなれば、氣短に引出すべからず、箸か竹などに卷付(まきつけ)て、しづかに卷付々々、くるくるとして引出し、内よりはいけみいだすやうにすれば出る也。必(かならず)氣をいらちて引切べからず、半時計(ばかり)にてやうやう出切る物也。この蟲出切(いできり)たらば、水にてよく洗(あらひ)て、黑燒にして貯置(ためおく)べし。せんきに用(もちゐ)て大妙藥也。此蟲せんきの蟲也。めつたにくだる事なし。ひよつとしてくだる人は、一生せんきの根をきり、二たびおこる事なし、長生のしるし也』と述べられており、これによるならば疝気には寄生虫病が含まれることになる(但し、これは「疝痛」と呼称される下腹部の疼痛の主因として、それを冤罪で特定したものであって、寄生虫病が疝痛の症状であるわけではない。ただ、江戸期の寄生虫の罹患率は極めて高く、多数の個体に寄生されていた者も多かったし、そうした顫動する虫を体内にあるのを見た当時の人はそれをある種の病態の主因と考えたのは自然である。中には「逆虫(さかむし)」と称して虫を嘔吐するケースもあった)。また、「せんき腰いたみ」という表現もよくあり、腰痛を示す内臓諸器官の多様な疾患も含まれていたことが分かる。従って疝気には今日の医学でいうところの疝痛を主症とする疾患、例えば腹部・下腹部の内臓諸器官の潰瘍や胆石症・ヘルニア・睾丸炎などの泌尿性器系疾患及び婦人病や先に掲げた寄生虫病などが含まれ、特にその疼痛は寒冷によって症状が悪化すると考えられていた(以上は概ね平凡社「世界大百科事典」の立川昭二氏の記載に拠ったが、「譚海」の全文引用と( )内の寄生虫病の注は私の全くのオリジナルである。私は寄生虫が大好きな危険がアブナイ男なのである)。疝気にマタタビが有効であるとする記載は耳嚢 巻之七 疝痛を治する妙藥の事にも出る。

「蓼」ナデシコ目タデ科 Persicarieae 連イヌタデ属サナエタデ節 Persicaria に属する特有の香りと辛味を持つタデ類。ネット上でも双子葉植物綱タデ目タデ科 Polygonaceae の生薬を用いた調剤物について、患部を湿らせ温めるとあり、他にも皮膚の抵抗力を向上させる、スキンケアに効果があるとする。]

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