晴れた空 村山槐多
晴れた空
澄み切つた雨ふりだつた
それはきのふの夜で
今日の空は紫がかる程靑い
孔雀の背中を思はせる
晴れた、晴れて居る
すつかり晴れてしまつた
私は歩くちよこちよこと
重たい棒をぶらさげて
だれだ、だれだ、だれだ
だれだか天から私の頭に
ぶどうの玉を投げつける
紫のぶどうの玉が絶えまなく
私の頭にぶつつかる
ぶつつかつてつぶれる。
美しい空だ。につと笑つてる
私の眼も口も耳も鼻も
それにつかつて居る
アルコホルに浸つた果物の樣に
晴れた、晴れて居る
すつかり晴れてしまつた。
×
光る樣に笑つたあの人は
私の貴とい寶物だ
いつまでもいつまでもなくすまいと思ふ
私は落したり拾つたりして居る
私の寶物を
私はよろよろと行く
私は醉人の樣に
[やぶちゃん注:「ぶどう」はママ。]