雨ふり 村山槐多
雨ふり
しゆつしゆつと音立てゝ
強い雨がふる
高臺に草は濡れて
空をうらんで居る
高臺の上から
私の眼が見下して居る
雨にひしやげ押しながされ
泣いてくだける村の屋根を
美しい薄靑い霧を
泣いて走る小僧を
首をふる凉しい高い木を
くたばつたカンナ畑を
しゆつしゆつと雨は射る
私は心(しん)まで濡れてしまつた
傘の持ち樣が不器用だし
おまけにその傘がやぶれて居る
×
氷のかけが私の手のひらに載つかつた
と思つたら消えた
足さきが地に凍りついた
と思つたら離れた
紫の月がうつくしい息吹の中に
凄い顏を見せる
冬の眞夜中はふけた
×
輝く月が紫のけぶりに沈んで
うつくしい夜と離れた
私はどつと暗に落ちこんだ
恐ろしさに慄へて私は立すくむ
高い樹木らは冷酒をあふつて
ならず者の樣に私をかこんだ
×
屍□をゆめみて冷たい室に居り
障子に風の顫ふ響ひとりきき
さてはちまたに氷山の空をとびくと
せまき小みちに逃げ入り
[やぶちゃん注:「全集」編者山本太郎氏は「屍□をゆめみて冷たい室に居り」を、
*
屍骸をゆめみて冷たい室に居り
*
と推定復元されている。これでは意識的伏字とは思われないから、山本氏は判読不能字を復元されたということであろう。]