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2015/07/22

夢野久作 定本 獵奇歌 (Ⅳ)

 

トラムプのハートを刺せば

黑い血が……

クラブ刺せば……

赤い血が出る

 

ストーブがトロトロと鳴る

忘れてゐた罪の思ひ出が

トロトロと鳴る

 

[やぶちゃん注:二箇所の「トロトロ」は二箇所とも底本では踊り字「〱」。]

 

雪だつた

ストーブの火を見つめつゝ

殺した女を

思うたその夜は……

 

死刑囚が

眼かくしをされて

微笑したその時

黑い後光がさした

 

子供等が

相手の瞳にわが瞳をうつして遊ぶ

おびえごゝろに

 

やは肌の

熱き血しほを刺しもみで

さびしからずや

惡を説く君

 

[やぶちゃん注:後の與謝野晶子こと鳳(ほう)晶子の処女歌集「みだれ髪」(與謝野鐡幹編明治三四(一九〇一)年八月十五日東京新詩社・伊藤文友館共版)に所収された中でも最も人口に膾炙する一首、

 やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

の初出は前年の『明星』明治三十三年十月刊の第七号(同誌は同年四月創刊)で、初出当時、夢野久作は満十一歳、大分尋常高等小学校二年であった。]

 

夕ぐれは

人の瞳の並ぶごとし

病院の窓の

向うの軒先

 

眞夜中に

枕元の壁を撫でまはし

夢だとわかり

又ソツと寢る

 

親の恩を

一々感じて行つたなら

親は無限に愛しられまい

 

屍體の血は

コンナ色だと笑ひつゝ

紅茶を

匙でかきまはしてみせる

 

梅毒と

女が泣くので

それならば

生かして置いてくれようかと思ふ

 

紅い日に煤煙を吐かせ

靑い月に血をしたゝらせて

畫家が笑つた

 

黑い大きな

吾が手を見るたびに

美しい眞白い首を

摑み絞め度くなる

 

闇の中を誰か

此方を向いて來る

近づいてみると

血ダラケの俺……

 

投げこんだ出刃と一所に

あの寒さが殘つてゐよう

ドブ溜の底

 

煙突が

ドンドン煙を吐き出した

あんまり空が淸淨なので……

 

[やぶちゃん注:「ドンドン」の後半は底本では踊り字「〱」。]

 

雪の底から抱へ出された

佛樣が

風にあたると

眼をすこし開けた

 

病人は

イヨイヨ駄目と聞いたので

枕元の花の

水をかへてやる

 

[やぶちゃん注:「イヨイヨ」の後半は底本では踊り字「〱」。]

 

 

   (昭和六(一九三一)年三月号『獵奇』・署名「夢野久作」・総表題は「獵奇歌」

[やぶちゃん注:前回からは実に十ヶ月のスパンがある。]

 

 

 

宇宙線がフンダンに來て

イライラと俺の心を

キチガヒにしかける

 

[やぶちゃん注:「イヨイヨ」の後半は底本では踊り字「〱」。オーストリア生まれで後にアメリカ合衆国に移住した物理学者ヴィクトール・フランツ・ヘス(Victor Franz Hess 一八八三年~一九六四年:「ビクター」とも音写する。ナチスの台頭を嫌って一九三八年にアメリカへ渡りニューヨークのフォーダム大学教授となって一九四四年にアメリカの市民権を獲得)が気球を用いた放射線の計測実験(一九一一年から一九一二年)を行って地球外から飛来する高エネルギーの放射線を発見し、当時、地球上で検知し得る放射線が宇宙起源であることを証明した(この業績によって彼は後の一九三六年のノーベル物理学賞を受賞している。ここまではウィキヴィクトール・フランツ・ヘスに拠った)から、この歌はそれから二十年ほどが経過している。トンデモ説での非科学的人体影響説よりもなによりも、統合失調症の関係妄想例ではすこぶる高い確率で悪い電波という概念が出現するから、これもそうした新しい時代の新しい狂気の様態を踏まえていて私には頗る興味深い。まさに「ドグラ・マグラ」の久作ならではの一首と言えよう。]

 

隣室に誰か來たぞと盲者が云ふ

妻は行き得ず

ジツト耳を澄ます

 

眼が開いたら

芝居を見ると盲者が云ふ

その顏を見て妻が舌を出す

 

血壓が

次第々々に高くなつて

頸動脈を截り度くなるも

 

インチキを承知の上で

賭博打つ國際道德を

なつかしみ想ふ

 

[やぶちゃん注:「國際道德」まさにこの歌が『獵奇』に載った昭和七(一九三二)年一月、この前年の満州事変に対して(満州国建国は二ヶ月後の三月)、連盟はリットン調査団を結成している。国際連盟理事国であった日本は孤立して行き、翌一九三三年二月二十四日に日本は連盟を脱退する。]

 

二人の戀に

ポツンと打つたピリオツド

ジツト考へて紙を突き破る

 

日本晴れの日本の町を

支那人が行く

「それがどうした」

「どうもしないさ」

 

キリストが

或る時コンナ豫言をした

俺を抹殺するものがある……と

 

妻を納めた柩の中から

マザマザと俺の體臭が匂つて來る

深夜……………………

 

 

   (昭和七(一九三二)年一月号『獵奇』・署名「夢野久作」・総表題は「獵奇の歌」

[やぶちゃん注:前回からはこれもやはり十ヶ月のスパンがある。]

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