夏の夜 夢野久作 (五七調定型詞)
[やぶちゃん注:以下は西原和海編「夢野久作著作集 1」に載る「夏の夜」五七調定型詩(歌曲歌詞)である。これは西原氏の解題によれば、大正一三(一九二四)年九月三十一日発行の『月刊ふたば楽譜』第三十一・三十二合編号に「杉山泰道」名義で所収されたもので、横田三郎氏の譜面とともに載るとある。横田氏は明治後期から昭和初期にかけて音楽教育で活躍し、恐らく当時は修猷館中学(現在の福岡県立修猷館高等学校)の教諭で、後に福岡女子専門学校(現在の福岡女子大学)教授となった音楽家である。現在の修猷館高等学校館歌(校歌)の作曲者でもある。当時、夢野久作満三十二歳。中島河太郎編の第一書房版年譜によれば、同年三月一日附で九州日報を退社(但し、翌大正十四年四月一日再入社、十五年五月に再退社している。因みに同十五年四月に『新青年』の創作探偵小説募集で夢野久作(同筆名の最初の使用作とされる)「あやかしの鼓」が二等入選し、また、その時には既に「ドクラ・マグラ」の初稿「狂人の解放治療」が書かれていた)この翌十月に博文館主催の探偵小説募集に「侏儒」(杉山泰道名義)を応募、選外佳作となっている。なお、最初に示した「夢野久作短歌集成」という標題は彼のこうした詩や俳句も拾うこととするために「夢野久作詩歌集成」に変更することにした。]
夏の夜
黄昏時(たそがれどき)海鳴り遠く
月見草(つきみぐさ)おとなふ蟲は
何人(なにびと)の悲しき魂(たま)か
ほのかなる羽音のみして
霧深き草の葉末に
有明の月のおもて
白々と薄らぎ行くは
見つくさぬ夢の悲しみ
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