いのり 村山槐多
いのり
× わが神はわれひとりの神なり
神よ、神よ
この夜を平安にすごさしめたまへ
われをしてこのまま
この腕のままこの心のまま
この夜を越させてください
あす一日このままに置いて下さい
描きかけの畫をあすもつづけることの出來ますやうに、
×
神よ
いましばらく私を生かしておいて下さい
私は一日の生の爲めに女に生涯ふれるなと言はれればその言葉にもしたがひましやう
生きて居ると云ふその事だけでも
いかなるクレオパトラにもまさります
生きて居れば空が見られ木がみられ
畫が描ける
あすもあの寫生をつづけられる ――十二、八、
[やぶちゃん注:「× わが神はわれひとりの神なり」特異点表記。「わが神はわれひとりの神なり」はポイント落ち。「全集」では「×」はない。また、今まで述べていないが、創元文庫版は抄詩集で現在一纏めにされて「×」で繫がって示されている詩篇をぶつ切りにして、出して居るのであるが、驚くべきことに、この詩篇に関しては、二連を別々な詩篇として分け、第二連目(「神よ/いましばらく私を生かしておいて下さい」以下)を無題詩としている。
「したがひましやう」はママ。
「――十二、八、」底本では下インデント五ミリメートル上げのポイント落ちで配されてあり、「全集」では「うそだらう。」の次行下インデントポイント落ちで、しかも「――十二月八日」と書き換えられてある。この時、槐多に神が与えた現世での実際の滞在日数は残り七十三日であった。……]
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