譚海 卷之一 羽州秋田にて狐人をたぶらかしたるを討取事
羽州秋田にて狐人をたぶらかしたるを討取事
○羽州秋田にて、ある士鐡炮を攜へ鳥をうちに出ける。其路次(ろし)の堤(つつみ)を、行(いき)ては戾り、又立(たち)かへりては戾る人あり。さながら物に狂ふ樣に見えて恠(あやし)み見居(みをり)たるに、かたはなる林の内に狐居て、口に木の枝をくはへ、首を左右へ振𢌞(ふりまは)すに、堤の人狐の首の向ふ方へ行(ゆき)もどる也。左へ顧(かへりみ)れば左へ行(ゆき)、右へかへりみれば右へもどるをみれば、やがてさては狐に化されたるなりとみて、此士鐡砲をねらひすまして狐をうちければ、あやまたず狐倒れける。同時に堤の人も倒れて氣絕したるを呼起(よびおこ)しなどして、始(はじめ)てよみかえりたりとぞ。