日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十九章 一八八二年の日本 蛆の集団移動と対捕食者防衛術
図―626
図―627
ある朝私の召使いが、明らかに或る種の蠅の蛆と思われる虫の、奇妙な行列に、私の注意をうながした。彼等は三分の一インチほどの透明な、換言すれば無色な幼虫で、非常に湿っているのでお互にくっつき合い、長いかたまった群をなして、私の部屋の前の平な通路を這って行った。彼等は仲間同志の上をすべり、この方法によってのみ乾燥した表面を這うことが出来るのであり、またこの方法によってのみ、彼等は行列の両側をウロウロする、数匹の小さな黄色い蟻から、彼等自身を保護することが出来るのである。時に一匹の虫が行列から離れると、蟻は即座にそれを取りおさえ、引きずって行って了う。行列の先端が邪魔されると、全体が同時に停止する。私は行列の先方に長い溝を掘ったが、首導者連が肩形にひろがって、横断す可き場所をさぐり求める有様は、誠に興味が深かった。図626は長さ二フィートの行列の一部分で、図627は展開した行列の先頭である。行列は徐々に家の一方側へ行き、そこで割目へかくれて了った。この旅行方法が、保護の目的を達していることは明白である。蟻は、この一群から個々の虫を引き離すことが出来ないのだから。
[やぶちゃん注:「或る種の蠅の蛆と思われる虫」昆虫にお詳しい方は、この叙述で双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目ハエ下目 Muscomorpha の、例えばどのグループのハエかぐらいは同定出来てしまうのであろうか? 御教授を是非、乞いたく思う。
「三分の一インチ」一インチは八・五四センチメートルだから、凡そ八ミリメートル。
「小さな黄色い蟻」体色からハチ目ハチ亜目有剣下目スズメバチ上科アリ科フタフシアリ亜科ヒメアリ属ヒメアリ
Monomorium intrudens か(当初は私の家にもしばしば入り込んできては嚙みつく、家屋害虫として知られるイエヒメアリ Monomorium pharaonis かと思ったが、調べて見るとこれは少なくとも本州の諸都市に進入したのは昭和になってかららしい)。
「二フィート」六〇・九六センチメートル。]
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