穀物のにほひする女 村山槐多
穀物のにほひする女
北の美しの村月
幻の樣にほのかに
ながめて居る私に
小春の風がそよぐよ
ああこの金と靑との
小屋のかげに立つた
たくましい女の肌は
穀物のにほひがする
それを私はにほひだ
いまにほひだ
この美しい霞を通して
一目見たばかりで
美しの金の赤の村々
北山ののどかさに立つて
女をかくして居る
穀物のにほひのする女を
多情のたくましい女を
[やぶちゃん注:二十の頃、読んだ時、小学生の頃に見たジュゼッペ・デ・サンティスの「にがい米」(“Riso amaro”一九四九年イタリア)のシルヴァーナ・マンガーノの体臭を感じたものだった。]