闇の中に 村山槐多
闇の中に
都のいらか金箔に赤に輝く入日どき
斜めに覗ふ太陽の恐ろしき心にも
まさりて惡しきわが心わが靈は
ただ打顫ふ美しき紫の暗の中に
紫の闇の中にわが心打顫へ
ひたすらにおびえ、ひたすらに打おびえ
外の赤さに引かへて、ここの暗さの劇しさに
泣き泣く外にすべもなく
ああこの闇を脱け出でて西にまともし
惡漢の金と赤とのささげ物笑みて受けばや
虐殺のおはりし夜の闇黑を
とく逃げ出でむ
ああされどわれはただ打顫ふ
故わかず紫の闇の中に
美しき薄明りほのかに差せども
物の音もみやびなれども
ああわれは血のみなぎりし
赤鬼を戀し、慕ひ、すげなくされぬ
いまわれは故わかぬ罪業に唯顫へつつ
玻璃色の影の如くに美しき人を思へり
赤に金に萬象は悦び染まり
重量に耐へぬその時
いと憎しわが君よこの闇に
ただひとりわれを逃る美しきその人よ
鐘はうつ、たんたんとわが闇の外
にぎやかに太陽の惡の火焰に打染まる全部の上に
にぎやかに物音す人笑ふ
ああわれはただひとり打顫ふかくされし闇の中
[やぶちゃん注:「おはりし」はママ。]
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