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« 夢野久作 定本 獵奇歌 (Ⅷ) | トップページ | 舊稿の中より   夢野久作 »

2015/07/24

夢野久作 定本 獵奇歌 (Ⅸ) / 獵奇歌 了

 

體温器窓に透かして眺め入る

死に度いと思ふ

心を透かし見る

 

タツタ一つ

罪惡を知らぬ瞳があつた

殘虐不倫な狂女の瞳(め)だつた

 

冬空が絶壁の樣に屹立してゐる

そのコチラ側に

罪惡が在る

 

   (昭和一〇(一九三五)年二月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

無限に利く望遠鏡を

覗いてみた

自分の背中に蠅が止まつてゐた

 

眞鍮製の向日葵の花を

庭に植ゑた

彼の太陽を停止させる爲

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年四月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

おしろいの夜の香よりも

眞黑なる夜の血の香を

戀し初めしか

 

失戀した男の心が

剃刀でタンポヽの花を

刻んで居るも

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年五月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

世の中の坊主が

足りなくなつてゆく

醫學博士がアンマリ殖えるので

 

郊外の野山は

都會より殘忍だ

靜かに美しく微笑してゐるから

 

深海の盲目の魚が

戀しいと歌つた牧水も

死んでしまつた

 

[やぶちゃん注:「深海の盲目の魚が/戀しいと歌つた牧水」とは若山牧水の、

 

 海底に眼のなき魚の棲むといふ眼の無き魚の戀しかりけり

 

を指す。初出は知らないが、牧水の第四歌集「路上」(明治四四(一九一一)年博信堂書店刊)の巻頭を飾る一首として知られる。歌集刊行当時は久作二十二歳、慶応大学文科二年であった。なお、この一首は牧水の五年越しの人妻園田小枝子に対する恋の破れたその絶唱であるという。牧水の出身である宮崎県立延岡中学校、現在の延岡高校の同窓会ブログ「東海延友会」の工藤ゴウ氏の記事海底に眼のなき魚の棲むといふに詳しい。小枝子の写真や「路上」の初版表紙も見られる。必見。]

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年六月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

非常汽笛

汽車が止まると犯人が

ニツコリ笑つて麥畑を去る

 

汽缶車が

だんだん大きくなつて來る

菜種畠の白晝の恐怖

 

[やぶちゃん注:「汽缶車」三一書房版全集は「機関車」とする。「菜種畠」筑摩書房版全集を底本とする青空文庫版は「菜種畑」とする。]

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年七月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

毒藥と花束と

美人の死骸を積んだ

フルスピードの探偵小説

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年七月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

[やぶちゃん注:掲載はこの一首のみである。]

 

 

 

木の芽草の芽伸び上る中に

吾心伸び上りかねて

首を縊るも

 

波際の猫の死骸が

乾燥して薄目を開いて

夕日を見てゐる

 

自殺しに吾が來かゝれば

白い猫が線路の闇を

ソツと横切る

 

春風が

先づ探偵を吹き送り

アトから悠々と犯人を吹き送る

 

涯てしなく並ぶ土管が

人間の死骸を

一つ喰べ度いと云ふ

 

冬空にヂンヂンと鳴る電線が

死報の時だけ

ヒツソリとなる

 

[やぶちゃん注:「ヂンヂン」の後半は底本では踊り字「〱」。]

 

犯人の帽子を

巡査が拾ひ上げて

又棄てゝ行く

春の夕暮

 

血のやうに黑いダリヤを

凝視して少女が

ホツとため息をする

 

山の奧で仇讐同志がめぐり合つた

誰も居ないので

仲直りした

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年十月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

殺人狂が

針の無い時計を持つてゐた

殺すたんびにネヂをかけてゐた

 

腦髓が二つ在つたらばと思ふ

考へてはならぬ

事を考へるため

 

日の光り

腹の底まで吸ひ込んで

骨となりゆく行路病人

 

何もかも性に歸結するフロイドが

天體鏡で

女湯を覗く

 

[やぶちゃん注:この一首、浮世風呂の古浮世絵と、少し太い天体望遠鏡とフロイトらしい人物デッサンをエルンストの「慈善習慣」風にコラージュしてみたい欲求に駆られる。]

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年十一月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

 

 

 

風に散る木の葉の中の

惡黨が

池の向側に高飛びをする

 

囚人が

アハハと笑つてなぐられた

アハハと笑つて囚人が死んだ

 

中風の姑は何でも知つてゐる

死に度いと思ふ

妾の心まで

 

北極に行つて歸らぬ人々が

誰よりもノンキに

欠伸してゐる

 

[やぶちゃん注:「欠伸」の「欠」はママ。理由は既注。]

 

石コロが廣い往來の中央で

齒嚙みして居る

ポンと蹴つて遣る

 

一里ばかり撫でまはして來た

なつかしい石コロを

フト池に投げ込む

 

[やぶちゃん注:本歌が取り敢えず「獵奇歌」の掉尾である。]

 

 

   (昭和一〇(一九三五)年十一月号『ぷろふいる』・署名「夢野久作」)

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