ある日ぐれ 村山槐多
ある日ぐれ
血の強いにほひが
草木から、星から、走る車から
どくどくと、ほとばしる
血は血に滴(した)たり
血は血に飛ぶ
生きたる物から滴たる
その強さと恐ろしさとに
わたしはぎよつとした
どくどくと血が滴たる
萬物の動脈が切れた
命が跳ね上つた
そして落ちる
まつさかさまに
これはどうした事だ
逃げろ逃げろぐづつくな
血は滴る一滴、三滴、五滴、九滴
天から、地から、街から、電車から、
こりやどうだ
血のにほひの強さつたらない
ぎよつとしてたたづむ私の體軀からも
血が點々として滴たるぞ
血は血に
血は血に滴たる
あ。
[やぶちゃん注:第九連と第十連は「全集」では(底本の「たたづむ」は以下の通り、訂されてある)、
*
こりやどうだ
血のにほひの強さつたらない
ぎよつとしてたたずむ私の體軀からも
血が點々として滴たるぞ
*
と連続した一連となっている。三篇連続で底本と異なり、大いに不審である(繋がらなければならない必然性絶対性は全く認められないと私は思う)。しかもこの行空きは改頁ではなく、同頁内(三一五頁)ではっきりと示されたものである。]