たそがれの美少女 村山槐多
たそがれの美少女
紫の酒をとうべて醉ひしれぬ春の都は
夜は來る深き夜はいと妖艷に
うるはしき玉の如き燈火は點ず
辻々にゆきもどる若人のため
まだ殘る日のかげに遊べるあり
美しの少女あまた打群れて
その派手やかに着かざる衣裳(いしよう)は
人目を眩ず薄明り亂して
玻璃いろの人形めきたる
榮ちやんもたえまなく銀色のまりをつき
お手玉に燦爛と耽る子もあり
にほひよき薄明り美少女の群をたたへて
ただ消えゆくばかりなり春の夜に
時に燈火は叫ぶおごそかに「少女よ去れ」と
[やぶちゃん注:「とうべて」はママ。「全集」は「たうべて」と訂する。
「衣裳(いしよう)」底本のルビは「しよう」のみ。「全集」に準じた。
「榮ちやん」少女の実名か?]