樹下 村山槐多
樹下
美しい葉つぱが垂れかさなり
私のこはい顏を紫の陰影で深める
秋だな
と私はうなづいて寒さに顫へた
樹々は私を圍んで居た
秋さ
と彼等はこたへた
金色の葉つぱをざわざわさせて
それはお前たちばかりが知つた事かと
私は樹月の下をくぐり拔けて
明るい空の眞下まで行つた
菲翠の樣な空がまた
秋さと言つた
[やぶちゃん注:第一連の「と私はうなづいて寒さに顫へた」と「樹々は私を圍んで居た」は、「全集」では分離されて「樹々は私を圍んで居た」以下の四行が第二連となっている。しかし、底本ではここは三三一頁から三三二頁のめくりの改頁で、版組は完全に前者が最終行まで、後者が冒頭行から組まれている。即ち、これは連続した二行であることは言を俟たない。しかもここに行空けがなければおかしい(「あってもよい」ではない)とは私はさらさら思わない。
「菲翠」はママ。「全集」は「翡翠」と訂する。誤字或いは誤植であることは分かるが、誤植であることを証明出来ない以上、ママ注記で出すべきである。何故なら、これは注なしで容易に翡翠の誤りであろうと誰もが認知でき、読みを停滞させないからである。因みに言っておくが、現行では中国ではこれは誤字ではなく、翡翠のことである。「菲翠」で検索を掛けてみられるがよい。そこら中に翡翠の画像とちゃんとしたその説明文や標題中に夥しく「菲翠」と出るのを発見されるであろう。]