貧しい酒 村山槐多
貧しい酒
友だちと二人して私は呑んだ
辛い苦いさびしい酒を
安い盃からうんと呑んだ
そしてすつかり醉つぱらつた
額に皺をよせて二人は狂ひ廻つた
山犬の樣にリスの樣に
そして泥たんぼの上へひつくりかへり
とんぼがへり、ひとにかみついたり
怒つたり笑つたりした
「ああ、ああ、つらいつらい
何故こんな酒を呑まなくては居られないのか」
と二人は言ひました
がつかりした時に
醉ひがすつかりさめた時に
×
涙こぼすを恐るゝ故
われ哀れなる物事を見聞きせじ
美しき女子を見まじ
美しき景色も見まじ
鬼の如く見ゆと人は言ふ
われを見て
されどわれを見て
涙にもろき男と見し人は
よもあるまじ
玉ちやん玉ちやん
君こそその人にてあるべかりき
されどもしからざりしぞ
わがうらみなる
×
ぶどう棚をくぐり拔ける樣に
私は樣々の燈の下をくぐり拔けた
ぶどうよりも大粒な
紫、白、群靑、銀、オレンジなどの色の
強い愛らしい樣々な燈の下を拔けた
[やぶちゃん注:二箇所の「ぶどう」はママ。
「美しき景色も見まじ」「全集」は「美しき景色を見まじ」となっている。これは「も」でなくてはなるまい。]
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