化粧 村山槐多
化粧
ごらんごらん
女が素つ裸になつて鏡を睨んだ
お白粉を振りまいた
裸一杯に
ごらんよ
この眞白なばけ物が手早く
ぎらつく樣な紫のきものをかぶつた
裸一杯に
×
二十過ぎた女が
「かあちやん」とあまえて言つた
その時肉感が猛々しく起つた
美しいあつい夏の日中
「かあちやん」とあまへる女よ
そのあどけないにつとした笑よ
今に貴樣を美しい貴樣を
豚の樣に醜くい「かあちやん」にしてやるぞ
×
怪しき熱われをおそひ
わが額紫にをののく
ああああ奇しき熱
われを忙然たらしめ
醜くき物あたりに滿ち
世は光をなくしぬ
[やぶちゃん注:「あまへる」はママ。
「忙然」「ばうぜん」は「全集」は「茫然」とする。意味はそれでよい。しかし乍ら、この「忙然」という用字は誤りではなく、空海の「三教指帰(さんごうしいき)」などに用例さえある古いものであるから、従えない。]