夢野久作「赤泥社詠草」3
戀知らぬ男と生れ三十の秋のいく日をわれ老(おい)んとす
[やぶちゃん注:夢野久作の生年は明治二二(一八八九)年であるから、この年は数えで三十であった。]
いつはりのみちし世なるになれも亦枯れ木の森に高なくか鵙(もず)
[やぶちゃん注:加藤楸邨の「人間をやめるとすれば冬の鵙」より遙かに抒情性が高く、枯葉の匂いがする。]
冬されば貴族の如き戀をして乞食の如く死なむとぞ思ふ
[やぶちゃん注:既にして「猟奇歌」の臭いがしてきた……。]
(大正七(一八一八)年十二月二十二日)