沈みゆく都 村山槐多
沈みゆく都
薄靑き群靑交ぜて紫に
汚れたる玻璃色の月ある空に照りかへすは
燈火飾れる古き都なり
夜の山水ほのかにそこを取り卷く
都は沈淪すこの暗くこはれし夜の
おぼろなる月の影に
都は沈む酒の海のいと深き底
おお沈みゆく古き都は
されど燈火は玉の如く輝やく
明るさあでやかさよ辻々に
この沈みゆく廢れし都の眞夜中を
誰がためにかくばかり汝らはけはひするぞ
われさまよひて、とある小路に
少女に會へりいと愛らしき
その美しきまぶたには曉の影ありき
淸く品よき薄薔薇に染まりたる
さて少女おどろきてわれをながめつ、
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薄紅のアークライトよ
そが中心の火花よ
丁度葡萄酒を飮みゆく樣に
そは夜と共に更けゆく。